ⓒ 中央日報/中央日報日本語版2025.10.07 14:30

こだわりが強い韓江氏の文学はどのようにスウェーデン・アカデミー審査委員の心を動かしたのか。『菜食主義者』の商業的成功で英米圏の読者にアピールした後、韓国現代史を扱った作品を出したのが功を奏したとみる専門家が少なくない。もちろん韓江氏がこうした戦略的思考をしたという話ではない。昨年のノーベル賞受賞講演で韓江氏は2012年の春、明るい小説を書こうとしたと明らかにした。しかし10代初めのアルバムで接した光州(クァンジュ)の惨状、それで抱くことになった人間性に対する懐疑と向き合わなければ前に進めないという考えで結局『少年が来る』を書くことになったと語った。『少年が来る』と『別れを告げない』には魂が話者として登場したり、魂と人が対話したりする場面が出てくる。写実主義に合わないファンタジーだ。スウェーデン・アカデミーが「現代散文の革新家(an innovator in contemporary prose)」と評価した点だ。

文学性も文学性だが、韓江氏の受賞は結局、先進国レベルに成長した我々の国力と文化力が複合作用したものという点に異論の余地はないようだ。文学評論家の李光鎬(イ・グァンホ)氏は「韓江氏の受賞はアジア女性作家に、中でも韓国の作家に賞が与えられるほどの脈絡も作用した結果だと見る」と述べた。K-POPやKシネマなどに対する全地球的な関心が大きくなったうえ、ノーベル賞が白人男性作家に偏ってきた点をアカデミーが意識した可能性があるということだ。評論家キム・ミョンイン氏は「5・18や4・3を扱った韓江氏の小説がロシア・ウクライナ戦争やガザ地区で集団虐殺が発生する状況と重なったようだ」と分析した。同じく文学外的な考慮が作動したという見方だ。

◆廉想渉氏、崔仁勲氏ら先輩文人の遺産

脈絡を強調するなら、他の脈絡だったなら韓江氏でなく他の作家がノーベル賞を受ける可能性もあったという話になる。たとえば『広場』の崔仁勲(チェ・インフン)氏、1930年代の代表作である長編『三代』の廉想渉(ヨム・サンソプ)氏のような作家が海外に知られていればノーベル賞を受賞する可能性があったということだ。130年の韓国近代文学の蓄積はそれほど大きい。比較文学的検証が必要だが、評論家の金明仁(キム・ミョンイン)氏は「植民地近代時代に産出された韓国文学作品は世界史的記録」と言った。検閲体制で書かれ、深みがあり、独特ということだ。

1970年生まれの作家の韓江氏は誰よりも読書を熱心にする作家として知られている。解放直後、韓国戦争、維新独裁を貫通しながら力量を蓄積した先輩世代の文学を吸収しながら成長したと見るべきだろう。アカデミーのインタビューで「韓国文学と共に成長した」と述べたのは一種の愛情告白だ。こうした点で韓江氏に与えられたノーベル文学賞は同時に韓国文学に与えられたものと言うことができる。

シン・ジュンボン/論説委員

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