ロンドン(CNN) あまりにも劇的な変化のため、メッセージが混乱していても許容範囲だろう。
米国のJ・D・バンス副大統領は、ドナルド・トランプ大統領が、ウクライナに対して巡航ミサイル「トマホーク」を供与することを検討していると明らかにした。
バンス氏は9月28日、FOXニュースの番組で、「我々は今まさにこの瞬間にもこの問題について話し合っている」と述べ、「最終的な決定」はトランプ氏が下すだろうと言い添えた。
トランプ氏のウクライナ特使を務めるキース・ケロッグ氏は同日、ウクライナにはロシア本土奥地に攻撃を行う権限があるとの見方を示した。「奥地への攻撃能力を行使する」「聖域は存在しない」とケロッグ氏は述べた。ケロッグ氏はその後、自身の発言について、バンス氏やマルコ・ルビオ国務長官の公式発言に言及したものであり、ホワイトハウスの考え方を新たに示唆したものではないと説明した。だが、トランプ政権は、トマホークの配備を真剣に検討しているか、あるいはそう思わせようとしているのかのどちらかだろう。トマホークは本来、ロシアに対する長距離攻撃にのみ使われるものだ。
およそ40日前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は米アラスカ州で、レッドカーペットを歩きながらトランプ氏の大統領専用車「ビースト」に乗り込んだ。だが、今では、クレムリン(ロシア大統領府)は、わずか7カ月前にトランプ氏が「手札がない」と発言した敵に対して米国で最も効果的な長距離ミサイルが供給されるという事態に対処を迫られている。トランプ氏が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、ウクライナは占領地を全て奪還できると投稿してから数日後、これもまた政策の大転換だが、今回のトマホーク供与は長期的な影響力を持つものだ。
1991年の湾岸戦争で初めて有名になったトマホークは、英国や日本など米国の最も緊密な同盟国のために確保されている。最新型の「ブロック4」まで四つのモデルがあり、ブロック4は下方の標的のリアルタイム情報を送り返し、飛行中の目標変更が可能となっている。米国はトマホークを自国で供給するのではなく、欧州に売却して、ウクライナに引き渡す予定だ。しかし、トランプ政権がウクライナの能力を大幅に強化し、向上させていることに対するロシア政府の懸念が和らぐことはないだろう。
制御飛行試験を行う巡航ミサイル「トマホーク」の「ブロック4」=2002年、米カリフォルニア州/US Navy/AFP/Getty Images
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は自ら「デリケートな話題」と呼ぶ問題についてほとんど言及していない。ゼレンスキー氏は、ウクライナがすでに長距離用ドローン(無人機)を使ってロシアの製油所に損害を与え、ロシア国内の燃料不足が既成事実となっていることを認識している。明らかにウクライナ政府は、ロシア領の奥深くまで攻撃を仕掛ける能力を有している。そこでは、戦争は遠い出来事であり、貧しい人たちが戦って命を落とすものだとされていた。ウクライナはコンテナに隠された小型ドローンを使って「クモの巣」作戦を実行。シベリアの飛行場を攻撃して、独創性が単なる力や技術に取って代わることを示した。しかし、トマホークはロシアの防空にとって、新たな脅威となるだろう。ロシア首都モスクワの政府庁舎や国防省の壮大なインフラが無防備な標的となる可能性がある。
今後の計画は、戦術家が「戦略的あいまいさ」と呼ぶものを目指したものなのだろうか。ウクライナで増えている長距離ミサイルの備蓄がトマホーク攻撃による責任を主張できるようにするためか。あるいは、その逆の可能性もある。ミサイルの残骸が真犯人を示唆する可能性が高い。米国の関与が隠蔽(いんぺい)される可能性は低く、ロシア政府は同様の対応を迫られるだろう。
この新たなエスカレーション(激化)の脅威がどこへ向かうのかを予測するのに役立つかもしれない過去の出来事が二つある。一つ目は、米国からウクライナへの最後の大規模な兵器支援となった事例だ。バイデン前政権はウクライナ政府に対し、ロシア奥地への長射程ミサイル「ATACMS(アタクムス)」の発射を認める決断を下した。プーチン氏はこれに対して、新型の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」をドニプロのほぼ無人の倉庫に向けて発射することで応じた。
ロシア軍の攻撃によって光が見える夜空=2024年11月21日、ウクライナ・ドニプロ州/Ukrainian Emergency Service/AP
2024年11月21日の攻撃後、ドニプロ市の着弾地点で調査のために回収されたミサイルの破片/Roman Pilipey/AFP/Getty Images
その兵器は恐怖を呼ぶものに見えた。どうやら新型の核兵器が搭載可能なミサイルで、複数の通常弾頭も搭載でき、クレムリンは欧州の防衛網を突破できると誇示した。ウクライナの専門家は、このミサイルは旧型のRS26の派生型だと主張し、首都キーウの保管施設で筆者に、回路内の老朽化したバルブらしきものを見せた。要するにこれは、大きな技術的な飛躍でもなければ驚異的な武力の誇示でもなく、むしろ米国の紛れもないエスカレーションへの対応として、核兵器に近い穏やかな威嚇に過ぎなかった。3年半にわたる戦争をへて、ロシアの資源が著しく枯渇している現状では、トマホークの使用に対しても同様に効果のない対応に終わる可能性がある。
二つ目の前例は、ウクライナにとってあまり良いものではない。トランプ政権が前政権を凌駕(りょうが)するようなエスカレーションを警告した最後の事例は、ロシアの原油購入を理由にしてインドと中国に二次制裁を発動したときだった。これは数カ月にわたるロシアの不誠実な外交への対応だった。これほど広範な関税の導入は、ジョー・バイデン前大統領が検討したどれよりも強硬な措置だっただろう。実際、現在はインドに対して50%の関税が課されている。しかし、トランプ氏は、欧州がロシア産石油の購入をやめなければ、さらなる制裁には動かないと主張している。現時点では、トランプ氏は自制している。
トマホーク論争の帰結は、おそらくこれなのかもしれない。「最終決断」において、トランプ氏は、最も破壊的な措置を一時停止し、不可解なほど永続的にみえる関係、つまりプーチン氏との友情を維持するといういつもの流れに従うのだ。
◇
本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。
WACOCA: People, Life, Style.