[東京 1日 ロイター] – 日銀が1日に発表した9月短観は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス14と、2期連続で改善した。大企業・非製造業の業況判断DIはプラス34と前回から横ばいとなった。

市場関係者に見方を聞いた。

◎予想より強い、10月利上げを後押し

<農林中金総合研究所 理事研究員 南武志氏>

市場予想より強い。世界的な鋼材需要の減退で鉄鋼が悪くなっているのがやや気になるが、自動車が改善していることが要因だろう。

設備投資も相変わらず強い。人手不足から省力化投資が根強いことと、円高や相変わらずのカネ余りで株主からもより良い投資を促進するようプレッシャーがかかっているからではないか。

きょうの結果は、いずれも日銀にとって今月の利上げを阻害するものではなく、むしろ経済・物価は日銀の見通しにオントラックだとの判断が裏付けられた。日本の貿易統計、米国の消費者物価指数(CPI)や雇用統計が景気の過度な悪化を示さない限り、今月末の日銀利上げは織り込み済みとなるだろう。

◎利上げ再開の雰囲気高める内容

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>

全般的に悪くない内容だった。米国の相互関税発動後、しばらく時間が経過したが、懸念された製造業への影響は大きく出ていない。打たれ強い印象だ。全般的な円安がバッファーとなって、関税の影響を吸収できているのかもしれない。

日銀サイドから、そう遠くない将来に利上げしそうなコメントが出ていることもあり、そろそろ利上げ再開という雰囲気が市場でも高まるような内容だと見ている。

一方、米上院が先ほど、つなぎ予算案を否決したことで、政府機関の閉鎖がほぼ確実な情勢となってきた。事前に予想されていたこともあり、短期間の閉鎖であれば影響は軽微だろうが、長引くようであれば、景気にプラス効果はないし、米政治は機能不全との印象も持たれやすくなる。ドル売り圧力が強まることになるだろう。

◎予想並み、日銀利上げの逆風となる結果ではない

<三井住友トラスト・アセットマネジメント シニアストラテジスト 稲留克俊氏>

大枠としては「市場予想並み」との評価だ。足元で強まっていた日銀の早期利上げ観測に対しては、少なくとも「逆風になる結果ではない」と言える。

個人的には日銀利上げ観測には中立的だと受け止めているが、このところ「何でもかんでも利上げ材料」と捉える向きもいることを踏まえれば、これも早期利上げ観測を強める結果との受け止めもあるだろう。

短観の詳細を見ると、大企業・製造業の業況判断指数(DI)のほか、設備投資計画は予想並み、企業の物価見通しも前回調査から大きく変わらずだった。一方で需給判断はやや需給の引き締まりを示す結果で、ここは利上げに前向きとなれる結果だろう。

長期国債先物はきょうの短観発表直後に売られたほか、OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)のカーブもベアフラット化しており、円債市場では短観を受けてやや早期利上げを意識した動きになっている。

◎企業の底堅さ確認、日本株への影響は限定的

<岩井コスモ証券 投資調査部部長 有沢正一氏>

日銀短観の結果は、市場予想とほぼ一致し、悪くない内容だった。大企業・製造業の景況感が2期連続で改善しており、日本企業の底堅さが確認された。きょうの相場は売りで反応しており、これは日銀短観の影響というよりは、期初の益出しの売りが大きいのではないか。日銀短観への反応は限られ、これまで上昇をけん引してきた銘柄群に利益確定売りが出ている格好だろう。

一方、米政府機関の封鎖が確実視されているほか、自民党総裁選を週末に控えて、押し目買いの意欲はやや抑えられているようだ。米政府封鎖に関しては毎年言われていることだが、仮に封鎖となっても過去の経験から長くて1カ月程度で済んでいるため、米政府封鎖が金融市場のトレンドを変える材料にはならないとみている。

目先の日経平均は、4万5000円近辺で値固めした後、再び上昇基調となりそうだ。これから本格化する企業の決算発表を見極めながら、来期の業績期待が支えとなり上値を追う展開を見込んでいる。

◎製造業・非製造業とも堅調、10月の利上げ予想後押し

<SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト 丸山義正氏>

全体として今回の短観は、日銀が10月の会合で利上げするとの予想を後押しする内容だ。短観自体をもって米関税影響の先行きを判断するには早すぎるが、少なくとも業況判断DIは製造業を中心に堅調さが維持されている。

非製造業も高い水準を保っている。インバウンド(訪日外国人客)の増勢がピークアウトする中で、日本人による宿泊・観光旅行が改善し、インバウンドの鈍化を補って余りあるものにできるか、製造業とともにサービスセクターの動向を注視したい。

設備投資は、この時期にしては強めの上方修正だった。

◎10月利上げへ前進も「ダンディールではない」=伊藤忠総研

<伊藤忠総研 チーフエコノミスト 武田淳氏>

日銀による10月会合の利上げに向けて前進したことは間違いない。この時期の設備投資は上方修正されがちだが、「トランプ関税」の影響は設備投資計画にほとんど出ていないことが明らかになった。10月利上げを阻害するものは短観からは見受けられない。

とはいえ、まだダンディール(決定事項)ではない。株価の調整、為替が円高気味に振れるマーケットの動向もあり、最終判断を下すのは日本の貿易統計を見てからということになるだろう。

自動車関税はもともとの2.5%からは15%へ引き上げられた。他の分野別関税も鉄鋼50%、木材15%など高めの税率が残っており、9月以降確認が必要だ。

◎米との貿易問題回避、利上げ予想裏付け

<キャピタル・エコノミクス  アジア太平洋経済責任者 マルセル ティーリアント氏>

大企業製造業の景況指数が2期連続改善したことは、日本経済が米国との貿易問題を回避していることを裏付けた。日銀が10月会合で利上げサイクルを再開するという私どもの見解を支持する内容にもなった。

最も重要なのは、大企業が2025年度の設備投資額を12.5%増と予測していることだ。1年前に2024年度を10.6%増と予測していた水準を上回り、7-9月期の予測としては過去最高水準となった。

今回の短観は、労働市場が依然として非常に逼迫(ひっぱく)していることも裏付けた。

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