(英エコノミスト誌 2025年9月27日号)

ティックトックの買収を承認する大統領令に署名したトランプ大統領とその忠実な部下たち(9月25日、写真:UPI/アフロ)

だが、米国はそれでも負けるかもしれない。

 ドナルド・トランプ氏はジョークのネタにされるのを嫌う。

 そのため同氏の取り巻きはコメディアンのジミー・キンメル氏をテレビの深夜のトークショーから引きずり下ろすために些細な口実に飛びついた。

 また大統領は公の場で祝福されるべき時に批判されることにウンザリしている。

 そのため配下の弁護士たちはニューヨーク・タイムズ紙に名誉を毀損されたとして150億ドルの損害賠償を求める裁判を起こした。

 そして、トランプ氏は何事も闘いだと見なしていることから、側近たちは富豪の仲間に声をかけ、動画共有アプリTikTok(ティックトック)の米国事業の支配権を中国の親会社から買い取ってくれないかと要請した。

 こうした不穏な小競り合いは、米国メディアに対する戦いの一環だ。しかし、トランプ氏が完全な成功を収めているとはとても言えない。

 キンメル氏は復帰したし、ニューヨーク・タイムズ紙の件では連邦地裁が訴訟を一笑に付した。

 仲間の大金持ちたちでさえ、どこまで言うことを聞いてくれるか分からない。

注目と称賛を期待する米国大統領

 憲法修正1条で言論の自由をうたっている国では言及する必要もないはずだが、報道機関が臆病な国ではどうしても汚職がはびこり、政治がお粗末になり、有権者は冷笑的になって政治に愛想を尽かす。

 わずかな得票差で勝敗が決まる国では、特定の勢力に手懐けられたり、部分的にでも乗っ取られたりしているメディアがあれば、選挙の結果に決定的な影響が及びかねない。

 しかし、何かを望むこととそれを手に入れることとは違う。

 キンメル氏やその他の事例が示すように、米国内に不規則に広がる御しにくいメディアと自己主張できる市民とを牛耳るのは困難だろう。

 トランプ氏が、自分について人々が見たり読んだりするものをコントロールしたがっていることは明らかだ。

 その背景にあるのは、米国のメディアの大半には左派寄りの偏見が埋め込まれているという、かつては理にかなっていた保守派の不満よりも、自分が注目を浴びたがっているという事実、そしてその注目が称賛であることをますます期待するようになっているという事実のようだ。

 そして同氏の部下は、その称賛を浴びられるように奮闘することで大統領への忠誠心を証明している。

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