Image: GO FOR KOGEI 2025 | 松本勇⾺《スカイネッコ》2025 稲藁/⽵、⽊材 松本勇⾺《スカイネッコ》2025 稲藁/⽵、⽊材
工芸と聞いて、歴史ある伝統工芸品を思い浮かべる人も多いだろう。しかし最近では、アート界から熱視線なのである。そんな工芸とアートの間を表現したイベントが、金沢市と富山市で10月19日(日)まで開催されている「GO FOR KOGEI 2025」だ。
GO FOR KOGEIは、2020年からスタートし、ものづくりの伝統が息づく北陸で開催されている。今年のテーマは「工芸的なるもの」。民藝運動の主唱者である柳宗悦の提唱した概念から引用されているが、その言葉から意味を解釈するのはなかなか難しい。
まずは言葉をそのまま受け止めて、実際に作品を鑑賞しながら考えていけばいいのだと思う。
展示エリアは石川県金沢市の東山エリアと富山県富山市の岩瀬エリアに分かれ、どちらもまちなかに作品が点在している。まずは東山エリアに行ってみよう。
金沢会場は、古いまちなみが残る東山を中心に Image: GO FOR KOGEI 2025 コレクティブアクション 展⽰⾵景
金沢駅から近江町市場を通り越し、ひがし茶屋街方面へ。風情のある町並みで、たくさんの観光客が歩いている。すると見えてきたのは「SKLo」というギャラリー。ここでは自然布の蒐集家・研究家である吉田真一郎さんとキュレーターの秋元雄史さんによるコレクティブアクションの展示が行なわれていた。
大麻布に焦点を当てた今回の展示テーマは『1948』。日本国内で大麻取締法が制定された年号だそうだ。かつては日常着から神事まで広く使用されていた大麻布。その価値を見直すことになりそうだ。
Image: GO FOR KOGEI 2025 相良育弥+中川周⼠《⽊桶と茅葺き屋根の茶室》 2025 稲藁、杉
ひがし茶屋街をぐんぐん通り抜け、お次は「スタジオあ」へ。中へ入るとドンと巨大な桶? これは『木桶と茅葺き屋根の茶室』ということだ。京都の桶職人、中川周士さんによる建築に、茅葺き職人の相良育弥さんが屋根を葺いた。桶なので円になった部屋で、中の畳も丸い。茶道にさほどなじみがないという中川さんだけに、常識にとらわれないものになった。茶室というとなんだか緊張してしまうが、これならむしろ入ってみたくなる。
Image: GO FOR KOGEI 2025 KAIでの展示。寺澤季恵《生生 2》2024ガラス、鉄 Image: GO FOR KOGEI 2025 三浦史朗+宴KAIプロジェクト 展⽰⾵景
ここから山を少し登ると「KAI 離」がある。建築家、三浦史朗さんによる組み立て式茶室『回炉』が鑑賞できる。今回その襖絵を描いたのは1879年創業の九谷焼の窯元、上出長右衛門窯の上出惠悟さん。水墨画と油絵、作風を変えて描かれており、九谷焼の枠を超えた表現は、あたらしい工芸の姿を感じさせる。
Image: GO FOR KOGEI 2025 上出惠悟《卯辰山望湖台》 2025 油彩/カンヴァス、パネル Image: GO FOR KOGEI 2025 HATCHi金沢 by THE SHARE HOTELSにて。やまなみ工房 展⽰⾵景 富山会場は、美食のまち・岩瀬に凝縮
さて、一気に富山へ。金沢駅から新幹線なら30分弱、在来線でも1時間程度。富山駅から海のほうへポートラム(路面電車)で20分ほど行くと岩瀬エリアに到着する。 面積はさほど大きくない町だが、ミシュラン星つきの店が何店舗もあり、美食の町として有名だ。食とのコラボレーションによる作品も複数展示されている。
Image: GO FOR KOGEI 2025 舘鼻則孝 《ディセンディングペインティング “雲龍図 ”》2024 アクリルエマルジョンプリント
このまちで多くの物件をリノベーションし、多くの人やお店を呼び込んでいる仕掛け人ともいえる桝田隆一郎さん。桝田酒造店のオーナーであり、今回のGO FOR KOGEI 2025の岩瀬エリアでは桝田酒造店の建物も会場として提供している。
Image: GO FOR KOGEI 2025 窯や樽をつかった展示。その上ではコマが回る。舘鼻則孝 展⽰⾵景
その本丸、まさに酒造りが行なわれる酒蔵を会場としているのが、館鼻則孝さんの床面絵画作品『ディセンディングペインティング “雲龍図 ” 』だ。神仏習合を表現しているが、館鼻さんらしいはっきりとしたラインで、ポップに描かれている。館鼻さんの名を一躍有名にした、レディー・ガガ愛用の『ヒールレスシューズ』の新作 も展示されているので一目拝んでおきたいものだ。
Image: GO FOR KOGEI 2025 桝田酒造店 満寿泉にて。葉山有樹《双龍》 2023 アルミ複合板 Image: GO FOR KOGEI 2025 アリ・バユアジ 展⽰⾵景
桝田酒造店がかつて精米を行なっていたすぐ近くの建屋に行くと、魔女のようなものが中から睨みを効かせている。これはバリ・ヒンドゥー教の神話に登場するランダという魔女をモチーフにした作品だ。作家はインドネシアのアリ・バユアジ。作品名『Weaving the Ocean(海を織る)』の通り、海岸に漂着したプラスチック製の魚網をほどいて、糸に戻したものを再度織り上げている。ランダの周りには、この素材を用いて織られたタペストリーが飾られていて、廃棄物であったとは思えない美しさを放っていた。
Image: GO FOR KOGEI 2025 坂本森海《移動する土》 2025 土(珠洲市大谷地区で採取)
New An 蔵という場所では、動画作品と「土」が展示されている。作家の坂本森海(さかもとかい)さんは、陶芸を学ぶなかで、そのプロセス自体に注目し作品化している。
本展に先立って、坂本さんは豪雨災害の大きかった石川県珠洲市で復興ボランティアに参加した。その残土を用いたのが今作『移動する土』である。関連イベントとして「能登の土から生まれた七輪でふるまうバーベキュー」が10月19日(日)に開催される。珠洲市は珪藻土が採れて七輪の産地でもある。産業の土である一方で、災害の痕跡でもある土。これらを用いて自然との関係性を問いかける。
Image: GO FOR KOGEI 2025 桑田卓郎《プランター》 2025 ポリエチレン
前述した通り、岩瀬エリアには人気飲食店が多いが、そのひとつ「酒蕎楽くちいわ」と桑田卓郎さんがコラボしている。桑田さんは、陶芸の枠組みを超えたポップな作品などで有名だが、期間中、くちいわで予約して食事をすると、すべて桑田さんの器を使った贅沢なコースをいただくことができる。
また庭にはポリエチレンを溶解したプランターが飾られている。伝統的な技術を自由な感性で表現する桑田さんによる、素材にすらとらわれない“陶芸”のかたち。こちらはくちいわに入らずとも鑑賞可能。
Image: GO FOR KOGEI 2025 サエボーグ 展⽰⾵景
旧岩瀬銀行の2階には展示室が複数あり、清水徳子+清水美帆+オィヴン・レンバーグ、髙 知子、清水千秋、吉積彩乃などの作家が展示をしている。
なかでも異彩を放っているのがサエボーグだ。部屋に入っていきなり目に飛び込んでくるのが吊るされた『サエポーク(吊り豚)』。ラテックス製のボディスーツで、人が着用できる仕組みになっている(会場では着用不可)。展示されている動画作品では、豚(のラテックスを着た人間)が産まれてから屠殺されるまでの演劇作品が流れており、ポップな作風に対して批評性が高い。
Image: GO FOR KOGEI 2025 松本勇⾺《スカイネッコ》2025 稲藁/⽵、⽊材
岩瀬エリアの展示はぎゅっとまとまっているが、その間に幾度となく鑑賞することになる屋外作品が坂本勇馬さんの『ムウ』と『スカイネッコ』である。どちらも藁による巨大作品で、穀物の抜け殻であるはずの藁が、動物の毛並みを生き生きと生み出す。藁がとれる稲作や農業は、かつては協働作業であった。そこからインスピレーションを受けて、地元のボランティアとともに作り上げた作品だ。
「工芸的なるもの」は社会性!?
冒頭の通り、今回のテーマは「工芸的なるもの」。GO FOR KOGEI 2025のアーティスティックデレクターの秋元雄史(東京藝術大学名誉教授)さんはこう言う。
主唱者の柳宗悦にとって工芸的なるものとは、個人の自由な表現というより、社会全体で共有される美意識や様式に基づいたものであり、そこに美や価値が宿ると考えていました。工芸は今日私たちが想定する以上に社会とつながり、広がりをもったものとして立ち現れてきます
社会のなかでどうあるか、その関係性。ただ理解不可能なアート(だからこそおもしろいのだが)を見ているのではなく、自分と重ね合わせられるものたち。そんな気持ちを持つことができる旅になるだろう。
【開催概要】
会期
2025年9月13日(土)–10月19日(日)[37日間]
休場日
水曜
時間
10:00-16:30(最終入場16:00)
会場
富山県富山市(岩瀬エリア)、石川県金沢市(東山エリア)
料金
一般2,500円 学生(大学生・専門学生)2,000円
主催
認定NPO法人趣都金澤、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
共催
富山県、富山市、北日本新聞社
後援
石川県、金沢市、JR西日本、富山地方鉄道、北國新聞社、富山新聞社、MRO北陸放送、石川テレビ放送、HAB北陸朝日放送、北日本放送、富山テレビ放送、チューリップテレビ
GO FOR KOGEI 2025 GO FOR KOGEI 2025は、2025年9月13日(土)から10月19日(日)まで富山県富山市と石川県金沢市で開催します。 https://2025.goforkogei.com/
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