多様な背景をもつ子どもたちが“働く”を通じて未来を描いた三日間

2025年7月20日(日)、27日(日)、8月3日(日)の3回にわたり、島根県出雲市にて外国につながる子どもたちを対象とした職業体験プログラム「日本語活動の日:出雲でおしごと!」が開催されました。本プログラムは、JICA中国、並びに公益財団法人しまね国際センターが共同で企画し、地域の企業や施設の協力のもと、子どもたちが日本語を使いながら職業体験を通じて「働くこと」への理解を深めることや、日本語を楽しく使い、言語習得を単なる学習の対象としてではなく、自身の可能性を広げるツールとして捉えることの気づきを促すことを目的として実施しました。

参加したのは、出雲市内の小学校高学年から中学生4名。計3日間のプログラムは、外国につながる子どもたちにとって「働くこと」への理解を深めるだけでなく、自分の未来を描くきっかけとなったようでした。

はじめの一歩—~自己紹介から始まる学びの時間~

【第1回|7月20日(日)】
初回は出雲市立ひかわ図書館の視聴覚ホールにてプログラムを行いました。会場に集まった子どもたちは、初対面の仲間や日本語教師の資格を持つ講師を前に、少し緊張した様子で席に座っていました。講師が「みんなの好きな色は何ですか」と問いかけると、少しずつ子どもたち同士の交流が始まり、互いの違いを知りながらも、共通点を見つけて笑顔がこぼれました。

まず初めに、子どもたちが体験予定の図書館、テレビ番組制作、アロマセラピストの仕事について説明を行いました。また、体験活動の目的や流れについても詳しく説明を行い、子どもたちは自分たちがどのような役割を担うのか、どんな準備が必要なのかを理解することができました。日本語の学習だけでなく、職業に対する姿勢なども学ぶ時間となりました。

この日は、次週以降に控えた職業体験に向けての事前学習が中心でした。次週体験する図書館の仕事で使われる日本語を確認したり図書館職員に対する質問を考えたり、アロマセラピーの基本的な語彙などを学んだりしながら、子どもたちは「働くこと」に対する興味を膨らませていきました。講師は、子どもたちの仕事の内容と日本語の理解度に合わせて丁寧に説明を行い、参加者が安心して学べる環境を整えていました。

初回の顔合わせの様子

様々な表現を学びました

図書館職員による説明

図書館の全体見学も行いました

質問する力を育てる——図書館の仕事から学ぶ

【第2回|7月27日(日)】
第2回プログラムもひかわ図書館で開催されました。この日は、いよいよ職業体験として図書館スタッフによる仕事紹介が行われました。書籍の分類や貸出業務、イベント企画など、図書館の多様な業務が紹介され、子どもたちは普段利用している図書館の「裏側」に触れる貴重な機会を得ました。子どもたちから図書館職員に対して「図書館にはどれくらいの本がありますか」と質問がなされると、職員は「本以外にもCDなどもあります。全てあわせると一万以上あります」と答え、子ども達は扱う資料の多さに驚いていました。
また、館内見学も行われ、普段はなかなか足を運ばない場所やスペースを訪れ、「図書館は地域の人々の居場所にもなっているのだ」と学びを深めることができました。

その後、翌週に控えたテレビ番組制作の職業体験の質問練習が始まると、子どもたちは真剣な表情に変わりました。「何人ぐらい働いていますか」「仕事をしていてどんな時いちばんうれしいですか」といった質問が飛び交い、講師は「とてもいい質問ですね」と笑顔で応じていました。
子どもたちは講師からフィードバックを受けながら、やり取りする力を身につけていきました。子どもたちの表情には、前回よりも一段と自信が感じられました。

質問の練習は、単なる言語学習ではなく、相手の話を聞き、理解し、共感する力を育てる重要なステップです。子どもたちは、質問を通じて職業人の思いや価値観に触れることができた様子でした。

働くを体感する——テレビとアロマセラピーの現場で未来を描く

【第3回|8月3日(日)】
最終日は、2つの職業体験です。午前中は出雲ケーブルテレビジョン株式会社にて、アナウンサーやディレクター、テロップ出しなどの業務を実際に体験しました。子どもたちはカメラの前で原稿を読む緊張感や、番組制作の裏側に触れ、「テレビってこんなふうに作られているんだ!」と目を輝かせていました。

そして、子どもたち全員、順番にアナウンサー役に挑戦です。最初は声が震えていましたが、周りからの「大丈夫、ゆっくりでいいよ」という言葉に背中を押され、堂々とニュース原稿を読み上げました。読み終えた瞬間、仲間たちから拍手が起こり、「すごく緊張したけど、楽しかった!」とこどもたちは笑顔を見せていました。
他にも、取材で使われるカメラを実際に担いでみたり、調整室(テロップ出しや画面切り替えを行う部屋)での体験ではテレビ番組スタッフに対して自発的に質問を行うなど、積極的な姿勢を見せてくれました。

午後は、出雲市民会館にて、アロマセラピストの仕事を学びました。講師(中医アロマサロンneko~寧香~)が「アロマオイルにはいろいろな種類があります。どの香りがいい香りだと感じるかで、体調がわかります」と説明すると、子どもたちは目を閉じて用意された複数のアロマを嗅ぎ、各々が様々な感想を述べていました。

子どもたちが自ら調合したアロマオイルを使ったハンドトリートメントを体験する場面では、互いに手を取り合いながら「ありがとう」と言い合う姿が印象的でした。ある子は「人を癒すって、すごいことだと思った」と語り、アロマの世界に興味を持った様子でした。

全ての職業体験プログラムを終え、最後に行った振り返りでは、こどもたちは母語のポルトガル語で感想を言ってもらいました。「アロマにいろいろな意味があることが分かって驚いた」、「テレビの製作には色々な人が関わっていてすごいと思った」といった声が多く聞かれました。講師陣は「子どもたちが積極的に発話していた」と語り、プログラムの意義を改めて感じてる機会になりました。

地域とともに、未来を育む

このプログラムは、単なる職業体験にとどまらず、外国につながる子どもたちが自分の可能性を見つけ、地域社会とのつながりを実感する貴重な機会となりました。言語や文化の壁を越え、子どもたちが主体的に未来を描く力を育む——そんな教育のあり方を示す、希望に満ちた3日間となりました。

このような取り組みより、地域の多文化共生の推進と、そしてなにより子ども達自身の可能性を広げていくことに繋がることに期待し、今後もJICA中国は様々な組織と共に多文化共生の推進に取り組んで参ります。

(記:島根県JICAデスク 小波津 チアゴ 明)

アナウンサー体験

調整室ではテロップ出しや指示をマイクから伝えたりしました

中国伝統医学の基礎知識、アロマの種類などを学びました

子どもたち同士でマッサージ体験も!

最後には全体の振り返りの時間を設けました

関連リンク

WACOCA: People, Life, Style.