■スズキ eビターラ(車両価格:¥3,993,000/税込み~)


(スズキ eビターラ国内発表の様子(写真)小沢コージ)

「コナと同じ399万円スタートには驚きましたね。当初は400万円台がやっとと聞いてたので」(自動車メディア関係者)

 注目の日本ブランドBEV(バッテリーEV)、スズキ eビターラの国内発表が行われた。最大の注目は価格で、なんと電池容量49kWhで航続距離433kmのエントリーグレードが399万3000円! 大容量61kWhのZが492万8000円。これに最低でも87万円の国の補助金が入るから、実に312万円ちょいの手頃な車両価格で本格バッテリーEVが手に入れられることになる。

 今までこのクラスのEVは韓国ヒョンデのコナが同一価格の399万3000円スタートで、中国BYDドルフィンが299万2000円スタート。特にコナはちょい大きめの全長4.3m強で電池容量48.6kWhからなのでサイズはほぼ同一。コスパで厳しかった国内ブランドEVも、遂にアジア勢と戦える値頃感に入ってきたわけだ。今後はeビターラのトヨタ版たるアーバンクルーザーも発売されるはずで、こちらにも期待できる。

■なぜ安くすることができたのか


(全長4.3m弱ボディ(写真)小沢コージ)

 しかし、その安さの裏側は知っておいた方がいいだろう。今までの国産EVは最も安い部類でも軽EVの日産サクラが約260万円から、同じく日産2代目リーフが約400万円からで、電池量は前者20kWhで、後者40kWhと電池を含むコスパにおいて負けていた。

 基本的には国産系リチウムイオン電池を使う国産EV。なんだかんだ世界のレアアース生産の9割を握られていると言われる中国に、電池納入価格では敵わなかったわけだ。

 では新型eビターラや今後出るだろうアーバンクルーザーを、なぜ安くすることができたのか。第一に、これがスズキとトヨタグループの共同開発&生産車であることだ。おのずと開発コストが分散でき、台数も増やすこともできる。

 第二に、生産がインドであることだ。今や利益の半分前後をインド市場で得て、生産台数もインドが最も多いスズキ。しかも今後インド政府は、2030年までに新車の乗用車販売の3割をBEVにしようとしている。

■EVはガソリン車以上に地産地消が進む


(eビターラのコクピット(写真)小沢コージ)

 そこでスズキも本腰を入れてインドでグローバルEVを作り始めたわけで、人件費その他は確実に安くなる。さらに言うと、eアクスル、つまりモーターを含む駆動系はトヨタグループのアイシンとデンソーの共同開発で工場はインド。これまた場所と数の論理から安くできる。

 さらなるキモはEV価格を左右するバッテリーで、トヨタグループではなく、中国BYD傘下のFDB(フィンドリームバッテリー)製を使っている。これはある種の苦肉の策ともいえ、結局のところEVのキモたる電池は中国産なのだ。

 この事実はガッカリとも言えるが、現実的とも言える。いつまでも純粋日本製にこだわっていると、BEV生産はにっちもさっちも行かないし、なにより今やEVはガソリン車以上に地産地消が進んでいる。少なくとも中国で売るEVには中国製バッテリーを使う必要があり、そういうプロダクト戦略は絶対に必要なのだ。

■モノ作りも政治的手腕が問われる時代に


(ラゲッジは300ℓクラス(写真)小沢コージ)

 加えて今後eビターラはインド産電池を使うのではないかという話がある。極めて政治的なEVというプロダクトは、ガソリン車以上にその手の駆け引きが活発なのだ。

 どんな状況になろうともアライアンスを上手いこと使って、出来る限り安くていい商品を作る。それがメーカーに課せられた使命なのである。

 そういう意味で日本のスズキとトヨタグループは最大限の努力をしている。あとは政治がいかに後押しをし、日本ブランドが安くていい材料を手に入れられる環境を作るか。モノ作りにもつくづく政治的手腕が問われる時代になっているのだ。

 ちなみにeビターラのデザイン的な評判は良く、全長4.3m弱ボディに大人5人と300ℓクラスのラゲッジを備えるパッケージも秀逸。あとは2WDだけでなく、4WDも備える走りの質だが、そのあたりは今後の試乗会でぜひリポートしたい。

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