トランプ米大統領が世界の富裕層に対して米国への移住の新たな選択肢を創出している一方で、欧州は逆の方向に向かっている。

  欧州では、一定以上の投資をする外国人に居住権を与えるいわゆる「ゴールデンビザ(査証)」プログラムが期待された成果を上げることができなかった。場合によっては逆効果にさえなり、縮小が進んでいる。特にポルトガルがそうだ。欧州で最も人気だったプログラムの一つが、地元住民を犠牲にして外国人が住宅価格を高騰させる結果となったのだ。

  ほとんどの場合、欧州の国々での居住権取得の要件は、100万ドル(約1億4800億円)で永住権を得られる「トランプ・ゴールドカード」よりもはるかに低かった。この制度と併せ、米国は移民対策の一環として、専門技術者が米国で就労するための「H-1Bビザ」について、申請手数料を10万ドル(約1480万円)に引き上げる方針も示した。

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ポルトガル

  ポルトガルは2023年、不動産価格の高騰を抑えるため、2023年に居住許可取得のための不動産購入ルートを廃止した。だが、代替ルートは依然として存在する。

Portugal Economy as Europe Discusses Response to US Tariffs

リスボンの住宅街

Source: Bloomberg

  ポルトガルのゴールデンビザは資本基盤強化を目的としており、申請者は承認された投資先またはベンチャーキャピタルファンドに最低50万ユーロ(約8700万円)を投入しなければならない。資格を得るには、当該機関が債券、株式、農業や太陽光発電といった国内プロジェクトを含むポルトガルの資産に、60%以上の資金を保有している必要がある。

  非営利団体への寄付を選択する場合、金額は25万ユーロまで下がり、人口密度の低い地域を支援する団体なら20万ユーロまで低くなる。このプログラムは米国、ブラジル、中国人に人気がある。

  この制度は奇妙な効果も生んでいる。例えばアボカド農園の価値が上昇したり、株式市場の上昇に寄与したりしている。小さな村にあるクラシックカー博物館が、コレクション拡充のための資金調達に成功したこともあった。

 

英国

  スターマー首相は、最近の増税や就労許可の制限拡大による経済的打撃を和らげるため、英国に多額の投資を行う外国人向けの特別ビザの導入を検討している。

  ブルームバーグは以前、人工知能、クリーンエネルギー、ライフサイエンスなど、戦略的に重要とされる分野に資金を提供する意思のある人々は、投資家ビザを取得できるようになると報じた。

  英国政府は、過去のゴールデンビザプログラムに関連する問題の再燃を警戒している。一報で英国は、投資家ビザにより、富裕層移民を対象とした優遇措置を抑制しようとしている欧州連合(EU)とは異なる道筋を英国が模索している可能性がある。

  これとは別に、英紙フィナンシャル・タイムズは22日、英国政府が世界トップクラスの人材に対して一部のビザ手数料を免除する計画を検討していると報じた。

ギリシャ

  EU域外の投資家は、アテネ、第2の都市テッサロニキ、または人口3100人以上の島々では、80万ユーロ相当の住宅用不動産を購入することと、ギリシャのゴールデンビザを取得できる。

Koukaki District as Greece Lifts Golden Visa Threshold to Ease Housing Crisis

アテネ

now: a ghost neighborhood full of short-term visitors that come and go depending on seasonality. Photographer: Ioana Epure/Bloomberg

  居住権を取得する他の選択肢としては、ギリシャ債や技術系スタートアップ企業への投資、歴史的建造物の改修など、様々な金額での投資もある。

  ギリシャのゴールデンビザを取得した上位2カ国は中国とトルコで、英国からの需要はEU離脱後に増加した。公式統計によると、ガザ紛争が続く中イスラエルからの申請も増加し、最近では米国からの需要も高まっている。

  居住許可は5年間有効で、投資を維持すれば無期限に更新できる。ビザを取得した投資家は、ギリシャに居住する義務はない。

 

ハンガリー

  ハンガリーは2017年、汚職疑惑を受けて従来のゴールデンビザ制度を廃止したが、昨年新たな制度を再開した。富裕層外国人を誘致しつつ、以前の制度に対する批判の一部に対応することが目的だ。また、住宅市場を過熱させずに投資を国内経済に誘導することも目指した。

Hungary's Capital Is Joining the Anti-Airbnb Drive

ブダペスト

Photographer: Akos Stiller/Bloomberg

  申請者は現在、二つの方法で資格を得られる。一つは、認可された不動産投資ファンドに最低25万ユーロを投資する方法だ。この投資は5年間保持する必要があり、ファンドは純資産の少なくとも40%をハンガリーの住宅用不動産に投資しなければならない。もう一つは、公益信託が運営する高等教育機関に100万ユーロを寄付することだ。

  ハンガリーは今年、従来の50万ユーロ相当の住宅不動産直接購入による居住権付与を廃止し、投資家は不動産を直接購入しても、居住資格を得られなくなった。

スペイン

  スペインのサンチェス政権は昨年、地元住民向けの手頃な価格の住宅供給を増やすため、外国人不動産購入者向けのゴールデンビザプログラムを終了した。

  このプログラムは、スペイン国内の住宅に50万ユーロ以上を投資する非EU市民に居住許可を与えるもので、数千人が利用した。投資家は主に中国、ロシア、米国、英国出身者だった。

  他のプログラムと同様に、2008年の金融危機後にスペインが資金を必要としていた時期に導入されたが、経済成長とスペイン人の住宅購入が難しい状況が続く中で、政権への政治的負担が増した。

アイルランド

  アイルランドは現在、好調な経済を受け、ゴールデンビザプログラムの「適切性」を見直し、2023年2月に制度を終了した。このプログラムは2012年にアイルランド政府が導入し、個人資産が少なくとも200万ユーロある非EU国民が対象だった。申請者の大半は富裕層の中国人だった。

オランダ

  オランダでは、125万ユーロの投資と引き換えに居住権を提供する外国人投資家誘致プログラムが、関心の低さから昨年4月に廃止された。

  オランダ移民局のウェブサイトによると、過去数年間で発行された許可証は10件未満だった。規則が緩和された後も、申請件数はあまり増えなかった。

 

原題:Europe Residency Gets Harder to Buy as Trump Sells Gold Card (1)(抜粋)

— 取材協力 Jasmina Kuzmanovic, Rodrigo Orihuela, Olivia Fletcher, Marton Kasnyik and Patrick Van Oosterom

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