チリ出身のテクニカル・ギタリスト:BAXTYを知っているだろうか? その正確無比かつダイナミックなプレイで近年人気急上昇中の彼は、Instagramを始めオンラインでの活動を契機に、ドリーム・シアターのキーボーディスト:ジョーダン・ルーデスのソロ・アルバム『PERMISSION TO FLY』(2024年)にゲスト参加したり、8月に開催されたジョン・ペトルーシの合宿型セミナー“Guitar Universe”に講師として招かれるなど、トップ・クラスのミュージシャン達からも注目を集めつつある。

他に表立ったリリースといえば2024年発表のデジタルEP『EVENT HORIZON』のみで、日本国内では知る人ぞ知る存在であったBAXTYだが、7月下旬に突如来日、大阪万博の会場でギターを弾いていることが判明した。そこでYGが直接本人にコンタクトを取ったところ、東京での取材が実現したのだった。

ここからお届けするインタビューでは、彼の音楽的背景からギター・プレイへの思い、現在の活動〜今後の展望に至るまで、BAXTYの人となりが分かるトピックを語ってもらった。彼のプレイをどこかで聴いたことがある人はもちろん、まだ未体験の人にもぜひご一読いただきたい。

物心がつく前からドリーム・シアターを聴き続けてきた

YG:あなたが日本におられることを知って驚いたのですが、どんな経緯で来られたのですか? 

BAXTY(以下B):母国のチリにあるエフェクター・メーカーのDSM & Humboldtが、大阪万博のチリの出展の一部に携わることになっていたんだ。ブランドから話があって、僕の音楽を会場でデモ演奏するよう招待された。光栄なことだよ、日本は素晴らしい国だから。しかも、話をもらったのが先週のことで、準備に3日しかなかった。「それでもやります、ベストを尽くして」…と答え、その機会をいただくことにした。誰もが日本に行けるわけじゃないからね。とても長い旅路だったし…30時間かかったのかな。昨日も演奏中に眠くなってしまって、「あれ? 指の感覚がない…」みたいな(笑)。随分クレイジーだったけど、まあそういうわけなんだ。

YG:今は大阪に滞在しているんですか? 

B:うん。東京へはこの取材のために、乗り方を教わって新幹線で来たよ。

YG:なんと…ありがとうございます! 

B:だって、クールなことだと思ったからね。ずっとヤング・ギターなどを見て練習していたので、とても嬉しいよ。この機会に、できるだけたくさんの人に会いたかったんだ。今、自分の音楽に力を入れているところなんでね。いろんなことが起こり始めてきた。ジョーダンのアルバムにも呼ばれたし、ジョンの“Guitar Universe”にも招かれている。すべてが素晴らしいことだ。チリの自分の寝室でギターを弾いていただけなのに。とても遠いところに来て、人とのつながりを作っていけるなんて素晴らしいし、なんだか未来的だ。20年前だったら、こうはいかなかったかもね。

YG:そもそも、あなたの名前はバスティアン・マルティネス(Bastian Martinez)ですよね? オンラインのあなたのアカウントでは“BAXTY”という名前がありますが、これは? 

B:これはアーティスト・ネームなんだ、本名だと長いから…。子供の頃、TVゲームをやる時に思いついた。プレイヤー名を入力する欄って文字数が限られているよね。それでこれを入れてみると「なかなかかっこいいな! 真ん中にXの文字もあるし」と思って。当時ギターは自分の趣味で、ソーシャル・メディアをやっても動画は上げていなかった。学校の友人はあまり音楽には興味がなかったもんでね。1日中家でギターを弾いて、その動画をアップしたら変に思われるだろう。だからInstagramにギター専用アカウントを立ち上げた。「アーティスト・ネームとしてもクールだな」と思って、こう名乗ることにしたというわけ。

YG:ライヴではBAXTYとしてソロ・バンドで弾いているのですか? バンド・メンバーは? 

B:曲はすべて僕が書く。で、ベースとドラムのバンド仲間がいるんだ。今このメンバーで、自分の次のソロ・アルバムを作っているよ。自分の曲を作るために活動をしているんだ。それこそが素晴らしいことだと思うから。で、BAXTYをプロジェクト名にしている。これはプリニとか、アーロン・マーシャルがやっているインターヴァルズとかと同じだよ。

YG:では、音楽的なバックグラウンドを教えて下さい。チリ出身で現在25歳とのことですが、初めて音楽をやってみようと思ったきっかけは? 

B:僕の父親だ。父親もギターを弾くんだよ。だから小さい頃から家にギターがあった。祖父も弾いていて、うちの家族はみんなギターや音楽が好きだったのが始まりなんだ。僕が最初にギターを手にした時のヒーローはダイムバッグ・ダレルだった。エネルギー満載なところがすごく気に入ったよ。それから、物心がつく前からドリーム・シアターを聴き続けてきた。父親がジョン・ペトルーシの大ファンで、ビデオを見せてくれたりした。だから、暇さえあればドリーム・シアターを弾いていたよ。ジョンは努力と鍛錬、長時間に及ぶ練習で真剣に腕を磨いていったよね。そういう意味で、ギタリストとしての僕の父親みたいな存在だ。他にはジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイとかもすごく好きだった。それからガスリー・ゴーヴァン。15歳の時に知ったんだけど、信じられなかったね! 「ギターでこんな音楽を作ることができるんだ!」と思ったから。テクニックはもちろん、音楽的なスタイルもそうだ。音選びもいいし…。

YG:子供の頃、どのぐらい練習していましたか? 

B:学校では勉強が多くて、17:00とか18:00頃に帰宅していた。自由時間をたくさん取るためにしっかり勉強して良い成績をとることを心がけたよ。それから「今日は学校に行くより練習したいな」と思った時には6〜8時間ぐらい、練習したり新しいことを学んだりしていた。TVゲーム機で遊ぶように、ギターを弾くことが自分にとってゲームみたいなものだった。練習しては、壁に飾ったギター・ヒーロー達のポスターを眺めて「もっと頑張らなきゃ!」と鼓舞し、演奏能力を伸ばしていった。

YG:現在は、ギター講師を職業とされているのですか?  

B:これまでは、PatreonやInstagram向けにレクチャー動画を作ってアイデアを共有してきたけど、今年は違う。次のアルバム作りに専念したくて、多くの時間を費やしているんだ。フル・タイムのミュージシャンになりたいから。これが自分自身だと思える音楽を見つけ、作り出したい。自分の場所を確保し、ギターのコミュニティを作っていきたいけど、それを実現するにはまず自分自身の声を見つける必要がある。学習する時期を経て、頃合いを見計らって動き出したけど、初めてのデモの出来は散々だった(笑)。ベースやドラムなども未熟でね。ギターだけじゃなく、全体をよく考える必要が出てきた。今でも絶えず様々な音楽を聴いて、ダイナミクスを研究しているよ。とても楽しい。すべてのパートがあるべき形で演奏された時、どの楽器も最高に輝けるから、どうやったらクールなものを作れるか、それをギターとミックスさせて、より壮大なものを作ろうと心がけているんだ。

YG:…ところで、結構がっしりした体つきに見えますが、普段から鍛えられているんですか? 

B:うん、ジムに通っているよ。運動は僕にとって大切なんだ。将来のために、筋肉をつけて体をしっかり整えておいたほうがいいと思うから。ジムに行くと、リラックスした自分だけの場所を持てる感じがするんだ。ノイズから開放される。なので、午前中はジムと、音楽を聴きながら歩くことに時間を費やしている。4時間かけて、そのうち1時間は曲を聴きながらただ歩くだけ。その間に、新しいアイデアを思いつくこともあるよ。帰宅する頃には気分爽快だ。そしたら楽器を手にとって「クールなアイデアを探そう」という時間に移っていく。…こういった、いろいろな予定をミックスするのが僕にとって良い気がしている。1日中ギターだけ触っていたら、変な気分になってくるよ。自分自身の状態を把握したり、自分の心とつながる時間が必要だ。

YG:筋トレはギター演奏に必要だと思いますか? 

B:ああ、もちろんだ。素晴らしいことだよ! 重いギターを使うことだってあるし、鍛えていればリラックスした状態で弾けるからね。キコ・ルーレイロはメガデスに入った時、広いステージ上を走り回ったりと、あらゆるパフォーマンスをやっていた。それを成し遂げるには、健康でいなきゃならないんだよ。「彼は凄いな! 僕ももっとああいうことをやらなきゃ」と思わされたね。

自分自身にとって特別なものを作りたい

BAXTY 東京での取材BAXTY 東京での取材

YG:昨年から、あなたの活動を振り返ってみると、ジョーダン・ルーデス『PERMISSION TO FLY』へのゲスト参加、11月には母国チリで行なわれた“KNOTFEST Sideshow”におけるBABYMETALのセットのオープニング出演、そして今夏は“Guitar Universe”へ講師として参加…など、より活発になっていることが伺えます。それぞれどのような経緯で実現したのでしょう? 

B:まずBABYMETALの方は、地元に僕の音楽活動を知っている人がいて、電話をくれたんだ。即答だったよ! 予想外だったけど、とても大きな経験になった。同じ人が、ドリーム・シアターにも連絡を取ってくれた。今その人は、僕のマネージャーを務めているよ。

YG:ジョーダンと知り合ったのは、Instagramを通じて? 

B:ああ。僕の動画に対してメッセージが届いたんだ。「今度動画でチャットしよう」ってね。彼もギターを弾くじゃないか。凄い腕前だよ(笑)。それなのに、僕に「教えてほしい」と言ってくるんだ。非常に奇妙な感じがしたよ。そもそも英語が得意じゃないし、その上相手がジョーダンだ(笑)。でも返事はただ「イエス!」。約束の時間までに、英語を一生懸命勉強したよ。最初に言えたのは「こんにちは…」だけで、すごく緊張していたけど(笑)。とても寛大な人で、辛抱強く僕の言うことを理解しようとしてくれた。本当にありがたかったよ。

YG:それは貴重な体験ですね。

B:うん、ギターや音楽の話をたくさんしたよ。前にもジョーダンは、僕が以前出したEP『EVENT HORIZON』の最後の曲「Redemption」でゲスト・ソロを弾いてくれた。長い曲で、メロディックなフィールたっぷりのモダンな曲だ。Neural DSPに提供した「Disconnection」(2024年)という曲でもコラボしているんだ。その結果、もっと一緒に曲を作ろう…ということになったので、夢がかなったようだったね(笑)。そしてある日、「今度私の次のアルバムで、何か弾いてほしいんだ」と言われて…「ぜひとも!」と答えた。準備が出来ていなかったらどうしようと感じていたけど、彼は「そのままの自分でやってくれ」と、言ってくれたんだ。

YG:参加されたのは2曲ですね。

B:ああ、「In To The Lair」「Embers」だ。前者はギターとキーボードのソロ・バトルが入っている。とても面白かったね。

YG:対面でのレコーディングだったのですか? それともオンラインで? 

B:オンラインだよ。ビデオ通話で話し合いながら、アイデアを固めていった。

YG:「Embers」のギター・ソロは、短いながらも正確なピッキングが映えるフレーズになっていると思いますが、どのようなアプローチだったのでしょうか? 

B:まずは曲全体を聴いてコンセプトを掴んだ。それが最重要事項だからね。それから曲のムードを考えてみた。テンポがゆったりしているのでシュレッドするのはおかしいよね。ジョーダンから「ソロを弾いてみてくれよ!」と言われたので、弾いてみせたら「素晴らしい! じゃあ、それを録って送ってくれ!」。「凄い、やったぞ!」という気持ちだったね。でも取り組み方はいつも同じで、曲の流れやムードを大切にしたい。ラヴ・ソングなのか、怒りに満ちた曲なのか、曲に対して良いものを作ろうと思ったら、背景を知る必要がある。それをよく念頭に置いた上でベストなサウンドを心がけたよ。

YG:「Into To The Lair」はよりエネルギーのある楽曲なので、心構えも異なりますよね。

B:もちろんさ。こっちはとにかく、ジョーダンと一緒に楽しみながらクールなリフを弾くのが目的だった。「こんなアイデアを考えたんだけど」と弾いてみせると、「いいね! キープしておこう」と、ごく自然に進んでいったよ。

BAXTYBAXTY

YG:そして、8月にはジョン・ペトルーシの“Guitar Universe”へ参加されますね(編注:この取材の後、8月7日〜10日にわたって開催された)。 

B:ある時僕は、フェイスブック上でマスタークラスのレッスンを行なっていた。なんとそこにレーナ・ペトルーシ(ジョンの奥さん)が参加していたんだ。「あんな人達でもまだ学び続けているんだ」と思っていたら、後で主催者から「ジョンからあなたに話があるそうです」。そして「“Guitar Universe”に招待したい」と言われてびっくりした。僕の弟もファンだから「何だって!? クレイジーだな!」と言っていた…僕自身、今もまだその事実を消化している最中だよ。スティーヴ・モーズやトーシン・アバシ、他にもすごい人達がたくさんいるのに。だから、僕自身レジェンド達のギターから学ぶ気持ちで臨むつもりなんだ。きっとすごいことになるだろうな。

YG:ジョンといえば、あなたの「Under A Glass Moon」(ドリーム・シアター/1992年『IMAGES AND WORDS』収録)のコピー動画などは、きわめて原曲に正確なプレイでしたね。

B:どうもありがとう! ジョンのソロの中では初めに覚えたものの1つなんだ。ちょっとおもしろい話があってね…最初に取り組んだ頃、僕はギターを始めてまだ1年かそこらだった。親父には「全然弾けてないじゃないか」と言われたけど、「いや、絶対に弾いてみせる!」…それで、とにかく毎日ずっと弾いて弾いて、練習しまくった。すると、いつからか正しく弾けるようになった。とにかく自分のコンフォート・ゾーンを抜け出して新しいチャレンジに取り組む必要があったんだ。今は弾くのが大変だとしても、乗り越えるんだから関係のないことだ。

YG:今やあなたのお父さんも合格を出してくれているのでは?(笑) 

B:そうだね、「(ギタリストという)適職についたようだな」と言ってくれるよ。親父のギターはアイバニーズの“Presitige”だけど、最初の頃は触らせてくれなかった。「まずはアコースティック・ギターで練習しろ」(笑)。でも、分かったふりをしながら留守の間にこっそり弾いていたよ。「あれ? ギター使った?」「…はい、弾きました」なんてことがあったな。

YG:もしかして、あなたの動画に出てくる白いRGは…。

B:ああ、あれが親父のギターだ。とてもクールなギターだよ。今はもう、家族で使っていいことになってる(笑)。

YG:オルタネイト・ピッキングのレクチャー動画も非常に丁寧で分かりやすかったですが、もともとオルタネイトは得意なテクニックの1つなのでしょうか?  

B:いや、そもそも苦手だった。ナルト(『NARUTO -ナルト』)に、苦手を克服していく話があるよね。それと同じだよ。「自分にはできない!」と思っていたけど…逆に、もっと練習した。持てる時間をみんな費やしてね。結局解決になるのは、不可能に思えることを練習することなんだ。

YG:機材に関して、キーゼルのギターをいくつか使われているようですが、エンドースされているのですか? 

B:今はカスタム・モデルを製作中で、色などを選んだりチューニングを実験したりしているよ。こちらがふと思いついたアイデアを提案すると、すぐに試作品に取り組んでくれる。凄いことだ。やがてはシグネチュア・モデルを作りたいね。

YG:アンプやエフェクトは何を使っていますか? 

B:使っているのはNeural DSP“Quad Cortex”と、さっき話したDSM & Humboldtの“SIMPLIFIER X”“BLACK CLOUDS”。万博ではこの2個だけで演奏した。アナログ機器ならではの特別な空気感はうまく言い表せないぐらいの素晴らしさで、とても良かったね。今度はこれらを “Quad Cortex”に取り入れて、アナログ感溢れる素晴らしいサウンドを作りたい。そういったことも含め、“Quad Cortex”は何でもできるので、マジックだよ。こうやって新しいテクノロジーを取り入れながら、自分だけの声を探そうとしているんだ。

YG:今アルバムを制作中とのことですが、やはりギター・インストになりそうですか? シンガーを入れる可能性もあるのでしょうか?

B:もちろんシンガーも考えている。そうすれば、違うタイプの曲を作ることができる。最初はイメージしてなかったけど、ヴォーカル・パートやインスト・セクションを組み合わせた展開ができたら素晴らしいよね。複数のシンガーを当たって様々な選択肢を得ることもできるし。クリーン・ヴォイスだったり…僕はクリーンの方が好きだけど、他の側面も試せると思うし…。曲の流れにおいてどうバランスを取るか。より大きなものを作ることを目指して、慎重に進めているんだ。“シングル曲になるもの”とかではなく、自分自身にとって特別なものを作りたい。それがポイントだよ。今出来ている曲がここに入ってるよ(…と、携帯で聴かせてくれる)。これまで話したことがどういうことなのか、分かってもらえると思う。イントロのピアノはMIDI打ち込みだけど、本物のピアノで録り直したいし…。

YG:ドラムもご自分で打ち込んだのですか? 

B:そうだよ。

YG:とてもクールな曲ですね! 

B:だよね! ずっとギターにフォーカスするんじゃなくて、いろんなセクションが入っているんだ。

YG:アルバムの完成を楽しみにしています。

B:ありがとう! 

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EP『EVENT HORIZON』視聴リンク
Event Horizon by BAXTY – DistroKid

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