2025
9/20
沖縄が誇るブランド豚「アグー」は、柔らかく良質な脂と甘味たっぷりの味わいが特徴だ。純血100%のアグー豚の生育を積極的に行う「又吉(またよし)農園」。特別なおいしさの秘訣は、豚がストレスなく育つ環境と上質な飼料、そして若き後継者たちがアグーにかけるこだわりにあった。
目次
沖縄の食文化を担うブランド豚・アグー
沖縄が誇るブランド島豚「アグー」。肉質が柔らかく、旨味たっぷりの脂身、甘みとコクがある上品な味わいが特徴だ。高級しゃぶしゃぶ店での提供をはじめとし、嗜好肉として沖縄県内外を問わず知名度を上げている。
アグー豚は、一般豚に比べて小柄で一頭当たりの肉量が少なく、生まれる子豚の数も少数なことから、生産が難しい品種である。ゆえに希少価値が高いブランド豚としての地位をもたらしている。
アグー豚の起源は、約600年前の14世紀、明(現在の中国)から琉球王国に伝えられたのが始まりだと言われている。
第二次世界大戦後、アグーは激減し30頭ほどまで減ってしまったが、名護市(なごし)の北部農林高校の研究機関を筆頭に、戻し交配を行い1993年に原種を復活させることに成功した。これを受けて名護市は、琉球在来豚・アグーを復活させた地として2013年に「アグーの里」を宣言した。
ところで、アグー豚には2つの種類があることはご存知だろうか?
カタカナ表記の「アグー」は、純血のアグー豚の掛け合わせで生まれた豚を指す。
対してひらがな表記の「あぐー」は、JAおきなわの基準をクリアした農場産の豚肉を指し、雄のアグー豚と雌の西洋豚を交配してできた、要は“アグー豚のハーフ”である。
小型なアグーは一腹の出産が西洋種の半分以下。ランドレース、ヨークシャーといった大型で発育が早い西洋品種と交配することにより、「アグー」の優れた肉質を活かしつつ肉量の多い「あぐー豚」を生産している。
県内には「アグー豚」「あぐー豚」を飼育するアグーブランド豚指定生産農場が13戸あり、各農家によって掛け合わせのパターンが異なり、豚の大きさや肉質も変化する。
沖縄本島北部の名護市で畜産や農業を営む「又吉農園」は、純血×純血の“100%アグー豚を妥協せずに追求し、原種に近い交配に注力してきた。
ストレスフリーな環境とこだわりの飼料で育つ「又吉アグー」
名護市・安和岳(あわだけ)の麓にある又吉農園の養豚場。400頭ものアグー豚が飼育されている。採石地帯であるこの地は、もともと又吉家が所有する土地で、昔はミカン畑だったそう。年間を通して蒸し暑い沖縄だが、森に囲まれ日陰で涼しく、豚にとっても快適な環境だ。
ブランド豚「又吉アグー」の特徴は、生まれて1ヶ月後からのびのび走り回れる環境で育てられる点にある。広々とした環境でストレスフリーで育てることで肉質が良く、柔らかくなる要因に繋がるという。
またホルモン剤や抗生物質は一切使わず、無添加生育にもこだわっている。
2004年に創業した又吉農園は、2013年に法人化。2021年からは営業リーダーの又吉 朝太郎(あさたろう)さんを筆頭に、主力メンバーを20代の若手メンバーに総替わりした。
「食を通じて、地域にあんしんを届け続ける」を経営理念に掲げて、“純血のアグー豚”という希少価値とブランドバリューの向上に注力している。
「アグー豚は、通常の豚の大きさと比較して半分くらい小さく、出産数も半分ほど少ないのでビジネスモデル的には難しい品種ですが、その分おいしさの優位性は抜群です。これからも原種を大切に保有してチャレンジを続けていきたい」と話す又吉さん。
西洋種は半年ほどで肥育が完了するのに対し、アグー豚の肥育日数は約10か月かかる。その分エサ代もかかるので、ブランド化することで単価を保っている。
「生産量が限られるのが課題。急いで太らせて量を増やすこともできますが、肉質が落ちてしまうのが一番怖いこと。出荷の度に現物を見て脂の付き具合などをチェックします」。純血にこだわり、アグーの原種を守っていきたいという想いがひしひしと伝わってくる。
飼料にもこだわりが。2種類の飼料を、生育段階に応じてバランスや量を調整しながら与えている。
白い方は主食のエサとなる、JAのあぐー豚の規定に則った配合飼料。
茶色の方は、ビール粕、米ぬか、パイン粕を含んだ又吉農園オリジナルの発酵飼料。粕の栄養分には乳酸菌を含み、腸内環境の改善が見込まれる。
最初は穀物系やタンパク質を多めに与えて、子豚を肥育する際は発酵飼料の含有量を増やすなど、成長段階に合わせて内容や質を変え、旨味アップに繋げている。
昨今は飼料代も高騰し、苦戦を強いられる中、「又吉アグー」としてのブランドを掲げ、通常の豚の倍以上の高単価で卸しできるように交渉している。
那覇市のしゃぶしゃぶ店など取引先には養豚場を見学して飼育のこだわりを見てもらった上で、アグー豚ならではの価値を伝えている。
「飼料代の高騰と、アグー豚の生産性の低さは率直に伝えつつ、実際に食べてもらって味で勝負し、お取引きしたいかどうかを判断いただいています」と話す、若きメンバーの真っ直ぐな眼差しが印象的だ。
甘くてとろけるアグー豚をしゃぶしゃぶで
脂がきれいにのって美しい「又吉アグー」。
肉質が柔らかく、脂身の旨味がたっぷりで、脂肪融点が低いため口の中ですっと溶けていくような食感が特徴のアグー豚。オレイン酸が豊富に含まれ、香りがよく風味も豊かだ。
アグーは獣臭に近い酸味・臭みを持つリノール酸も高いが、野性味があり旨味にも通ずるところだという。
その上で、アグーは脂身の融点が低いという優位性があるため“脂がしつこくない”のも良さ。火を通してもアクが出にくいのが証明だ。
アグー豚の部位で人気なのはバラや肩ロースで、素材の味を堪能できるしゃぶしゃぶが一番合うという。
甘くて食べやすいロースは、ポン酢、ゴマダレでいただくのがおすすめ。
脂の旨味が強いバラ肉は、火を入れても固くなりづらく柔らかいのが特徴だ。獲れたてのシークヮーサーをキュっと絞っても相性が良い◎
アグー特有の霜降りには旨味成分が多く含まれ、赤身部分も、脂肪部分に関しても味わいが濃厚。西洋種が淡泊に感じるほど旨味が強い点が、何よりの差別化ポイントだ。
目指すは地域に根付いた畜産&農業
営業リーダーの又吉さん(中央)と加工部担当の外間さん(左)、広報担当の宮城さん(右)の若手トリオに今後の抱負を聞いた。
「農業は高齢化が進み衰退が課題となる中、逆行して農業の職業地位を上げていきたい。希少価値の高いアグーの生産を積極的に発信して認知度を高め、若い人が“農業やってみたい”と思える会社にして、地域の文化や暮らし、景色を守っていきたい」。
「“純血へのこだわり”を軸に、今持っているアグーの種を守りながら増やしていくビジネスモデルを強化していきたい」。
「若い人の農業定着は低くなっているが、自分たちで作ったものをいくらで世に出せるかの責任感と面白さを伝えていき、感じてほしい」。
それぞれの想いを持った若き後継者たちが手塩にかけて育てあげるアグー豚。
これからも本質を見失わずに真摯に向き合い、アグーの魅力を、ここ沖縄から日本、世界へと発信し続けていくことだろう。
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