レストラン型のアンテナショップの先駆けとして、19年の歴史を重ねる大分県フラッグショップ〈坐来大分〉。店内は、大分県の食材や調味料、工芸品を販売するギャラリー、オープンキッチンに面したカウンターと個性豊かな5つの個室、メインダイニングで構成されています。

〈坐来大分〉のテーブル席5室の個室も、すべてしつらえが異なり、大分県の作家の作品などを展示しています。

大分県産の孟宗竹(もうそうちく)を用いたファサードにはじまり、インテリアにも日田杉や臼杵の灰石など、インテリアにも大分が誇る建材がふんだんに使われていて、東京にいながらにして大分を体感できる空間です。

厨房を仕切るのは臼杵の老舗〈臼杵ふぐ 山田屋〉西麻布店などで腕を磨いた櫻井政義料理長。食材の産地や生産者のストーリーも大切に、郷土の味にクリエイティビティをかけ合わせた料理に定評があります。

今回はその櫻井料理長に、大分県が誇る食材を使ったメニューを紹介してもらい、さらに家庭でもできるレシピを教えてもらいました。

〈坐来大分〉の櫻井政義料理長2023年から〈坐来大分〉を率いる櫻井政義料理長。

大分県産の食材で、いま、まさに旬を迎えているのが日田梨。国内だけでなく海外にもファンが多く、幸水、豊水、あきづき、新高、新興、晩三吉、豊里などの品種が順に出荷され、8〜12月まで長い間楽しめるのが特徴です。どの品種も、糖度、熟度、果形など計5項目の厳しい基準をクリアしたものだけが、日田梨として出荷されます。

梨が木に生っている写真提供:大分県

収穫は8月以降ですが、おいしい梨づくりは、最後の収穫を終えた年明けすぐの剪定作業から始まります。木が均等に実をつけ、枝が果実の生育を妨げたり、果実を傷つけたりすることなく、必要な日照を得られるよう枝を切る作業で、生産者の経験、見極め、技術がものをいう大切な仕事。一年を通じたたゆまぬ努力が、味わいに結実するのです。

大分県産の梨・幸水写真は早生の幸水。坐来大分では日田梨を中心に、みずみずしい大分県産の梨を使用しています。シャキシャキ食感が美味!
ピリッと爽やかなひと皿

「日田梨は、みずみずしさと香りのよさが格別です」と、話す櫻井料理長。坐来大分では「鰻白焼きと日田梨山椒和えの重ね盛り」を提供しています。日田梨を鰻に合わせるとは、少し意外な感じがしますが、しゃきしゃきとした日田梨の食感とジューシーな甘みが、鰻の旨みを引き立てるひと皿です。

ふたつの食材の味をつなぐのが自家製の山椒オイル。鍋にサラダ油と刻んだ山椒の実を入れて火にかけ、弱火で焦がさないようにじっくりと火を入れ香りを引き出します。山椒も、日田市の大山で採れるとびきりのものです。

山椒の実を刻む手鍋でサラダ油と山椒の実を火にかけている

梨はまず桂むきにしてから極細の針状に。和食の料理人ならではの包丁仕事が光ります。切った梨を、先につくっておいた山椒オイルで和えます。

梨を桂むきしている梨を針状の細切りにボウルで山椒オイルと梨を和える厨房で調理を進める櫻井料理長「細切りにした日田梨の繊細な食感も味の決め手です」と、櫻井料理長。

鰻は日田市の川魚問屋〈魚福〉のものを使用。「魚福さんから年間を通して高品質のものが手に入り、若い方にもご年配の方にも人気なので、坐来でもよく使用します」と、櫻井料理長。炭火でじっくり火を入れ、ふっくらかつ香ばしく焼き上げます。

炭火で鰻を白焼きにしている

鰻が焼き上がったら、山椒オイルで和えた日田梨とミルフィーユ状に重ねながら器に盛りつけます。

「仕上げに〈佐藤農園〉の〈天領日田ビッグわさび〉と大山の木の芽を添えて完成です」

小鹿田焼の器に盛り付けられた「鰻白焼きと日田梨山椒和えの重ね盛り」「鰻白焼きと日田梨山椒和えの重ね盛り」。小鹿田焼(おんたやき)の器で。

日田梨だけでなく、鰻、山椒と木の芽、わさび、そして器にいたるまで、オール日田産というのが、このひと皿のストーリー。

「豊かな食材に恵まれた日田だからこそ、こんな仕立てができる。水郷・日田の風景を思い描きながらお楽しみください」

日田梨でアレンジ!
郷土料理が上品なスイーツに

続いては家庭でもできる、梨を使ったレシピをご紹介。大分県には小麦粉の生地と黒砂糖でつくる和風クレープのようなお菓子があり、日田地方では「へこ焼き」と呼ばれています。

「もともと家庭でつくられていたもの。発酵させなくていい生地なので、生地自体は簡単にできますよ」と、櫻井料理長が教えてくれたのは、日田梨を使ってへこ焼きを洋風にアレンジしたレシピです。

味のアクセントになるのは、かぼす。全国の生産量の9割が大分県産という、大分を代表する食材のひとつです。

器にたくさんのかぼすがのせられているしいたけと並び、大分県の食のシンボルといえるかぼす。秋が最も香り高く、旬の時季には坐来大分でも毎年販売します。

「酸味のなかにほのかな甘みがあり、爽やかな香りのかぼすは、いまが旬。香りが一番鮮烈です。果汁だけでなく果皮も使います」

この料理を失敗しないコツについて櫻井シェフに尋ねると、「冷やすひと手間をしっかり行うこと」だと教えてくれました。

生クリームにかぼすを絞っている生クリームにもかぼす果汁をたっぷり。

「生クリームは、氷水でボウルをしっかり冷やしながら立てると、滑らかに仕上がります。かぼす果汁を加えて混ぜたら、生地と合わせるまで冷やしておくのも大事です」

梨をくし型に切っているさらに梨を薄切りに

日田梨は、くし型に切ったものを薄切りに。食べやすく、食感が繊細になり、ワンランク上の味わいになります。

フライパンにうすく広げられた、へこ焼きの生地生地を薄く伸ばして焼きます。最初は強火で。生地を手で裏返している固まってきたら弱火にして裏返して焼きます。生地に少し焼き目がついている

「フライパンで薄く焼いた生地も、粗熱を取ったら冷蔵庫で冷やしておく。生地が温かいと、熱で生クリームがゆるくなり、きれいに巻くことができません」

焼きあがったへこ焼きの生地に生クリームを絞っている生クリームの上に切っておいた梨を並べている生クリームと梨をきれいに並べて巻きます。筒状に生地を巻いている様子

巻き方は、春巻きなどをつくるときと同じ。きれいな筒状になれば大成功です。

「そこですぐに食べたいところですが、ここでも一度、冷やす。冷やしてから切ると、断面がシャープに美しく仕上がります」

一口サイズに切り分けている

食べる直前に、かぼすピールを削りかければ、鮮やかなグリーンが目にも美しく、香りとほろ苦さのアクセントになります。

かぼすピールを削りかける様子

日田梨がひんやりとみずみずしく、薄切りの繊細な食感も心地よい。かぼすのアクセントが効いたさっぱりとした後味も魅力です。

小鹿田焼の皿に盛り付けられた「日田梨のへこ焼き」「日田梨のへこ焼き」。しっかり冷やすことで見た目にも美しく口当たりも爽やかに。

Recipe

日田梨のへこ焼き
材料
・日田梨 …… 1/4個
・小麦粉(薄力粉) …… 20g
・牛乳 …… 50ml
・全卵(溶き卵) …… 24g
・無塩バター …… 5g
・グラニュー糖 …… 6g
・サラダ油 …… 適量
※かぼすクリーム

生クリーム …… 50g
グラニュー糖 …… 5g
かぼす果汁 …… 1/2個分
かぼすピール …… 適量
作り方
1 かぼすクリームをつくる。生クリーム、グラニュー糖をボウルに入れ、氷水でボウルを冷やしながら五分立てにする。かぼす果汁を加え、冷蔵庫で冷やしておく。
2 小麦粉を一度ふるいにかけ、牛乳、全卵、無塩バター、グラニュー糖、サラダ油を加え、だまができないように混ぜ合わせる。
3 日田梨は4等分に切ってから皮をむいてヘタを取り、薄切りにしておく。
4 テフロン加工のフライパンに無塩バター(分量外)を入れて溶かし、2の生地をレードル(おたま)で流し入れ、フライパンの底に薄く伸ばし強火で焼く。表面が乾いてきたら弱火にし、固まったら裏返して両面を焼く。粗熱を取り、冷蔵庫で冷やす。
5 4の直径上に端を残して1をぬり、4を並べる。手前の生地をクリームに被せるように折り、両端を内側に織り込んで、筒状に巻く。
6 5を一度冷やしてから切り、皿に盛りつけて、かぼすピールをかける。

坐来でも自宅でも、
日田梨を楽しんで

坐来大分で提供される、鰻と合わせたクリエイティブなひと皿は、鰻と日田梨の相性の良さ、日田産食材のハーモニーに驚くはずです。

郷土料理のエッセンスを忍ばせたスイーツは、生地をしっかり冷やす、日田梨は薄く揃えて切るなど、レシピどおりの手間を惜しまずにつくれば、失敗知らずでホームメイドを超えたおいしさに。

日田梨は大分県公式「おんせん県おおいたオンラインショップ」(9月下旬から随時販売予定)や「JAおおいた日田梨部会」などで購入可能。また、かぼすや調理で使用した〈ひた山椒〉は坐来大分の店頭やオンラインショップでも購入できます。レストランでも自宅でも、いろいろなスタイルで、日田梨の長い旬を楽しみたいものです。

Information

坐来大分
address:東京都千代田区有楽町2-2-3 ヒューリックスクエア東京3F
tel:03-6264-6650
access:東京メトロ銀座駅・日比谷駅から徒歩約1分、JR有楽町駅から徒歩約3分
営業時間:ギャラリー(物販)11:30〜22:00
レストラン 11:30〜14:00(13:30L.O.)、17:00〜22:00(21:30L.O.)
定休日:土・日曜・祝日、年末年始、お盆
web:坐来大分 オンラインショップ

credit text:佐々木ケイ photo:衛藤キヨコ

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