「タイフォン」の発射訓練(7月16日オーストラリア北部で、米陸軍のサイトより)

米陸軍の中距離ミサイルを日本展開

レゾリュート・ドラゴン25

 日米同盟の抑止力・対処力をさらに強化する一環として、陸上自衛隊と米海兵隊の実働訓練「レゾリュート・ドラゴン25」が北海道から沖縄を舞台に、9月11日から同月25日までの予定で始まった。

 本訓練には、日米の陸海空部隊も参加しているが、中でも米陸軍の第3マルチドメイン任務部隊(MDTF)が「タイフォン(Typhon)」と呼ばれる、対艦・対地攻撃用の中距離ミサイルを初めて日本に展開する。

 このことに、内外の関心が集まっている。

 国際秩序の「混乱の枢軸(axis of upheaval)」と名指しされる中国とロシアが、早速反対・非難の声を上げた。

 特に、中国外務省の郭嘉昆報道官は「中国は一貫して、アメリカがアジア諸国に中距離ミサイルシステムのタイフォンを展開することに断固として反対している」と声高に自国の立場を主張した。

 中国が中距離ミサイルシステムの日本展開に断固反対する理由は、同ミサイルが中国に対し大きな脅威となると認識しているからにほかならない。

 では、本システムは、どのような能力を有しているのであろうか。

米陸軍の中距離ミサイルシステム開発

 米陸軍では、当該ミサイルシステムを正式には中距離能力(MRC:Mid-Range Capability)あるいは戦略中距離火力(SMRF:Strategic Mid-Range Fires)と呼び、「タイフォン(Typhon)」ミサイルシステムとしても知られている。

 この際、中距離は、「中距離核戦力(INF)全廃条約」で規定された射程500~5500キロを指していると解釈される。

 米ソは、東西冷戦末期の1987年に同条約を締結し、中距離弾道ミサイルの全廃を約束した。

 この条約には、地上発射型の弾道ミサイルおよび巡航ミサイルを禁止する内容が盛り込まれていた。

 しかし、ソ連の後継であるロシアの同条約違反が明らかになったことから、米国は同条約を破棄し、その後、失効したため、地上発射型ミサイルの開発が可能となった。

 ロシアのウクライナ侵攻などに見られるように、ロシアと中国の中・長距離ミサイルシステムの改良や無人航空機(UAV)などの普及により、両国の兵器システムが米国の作戦戦闘に及ぼす影響に対する懸念が、いやが上にも高まっている。

 これを受け、米陸軍は、既存の砲兵システムとミサイルシステムの改修、新たな長距離システム(極超音速兵器を含む)の開発、既存の空中発射型および海上発射型ミサイルの地上発射型への改修などを通じて、いわゆる長距離精密射撃(LRPF:long-range precision fires)の能力の向上を目指している。

 そのLRPF近代化ポートフォリオの一部が、MRC(SMRF)である。

 MRCは、海軍の弾道弾迎撃ミサイル・艦対空ミサイル「SM-6」と、「UGM-109」トマホーク巡航ミサイルを改修した地上発射型の中距離ミサイルで、射程約1800キロといわれる。

 このほか、米陸軍は、射程500~650キロ(1000キロへの延伸計画あり)の精密打撃ミサイル(PrSM:Precision Strike Missile)や射程約2800キロの長距離極超音速兵器(LRHW:Long-Range Hypersonic Weapon)などを開発しており、MRCは両システム射程間の標的を攻撃することを目指している。

 米陸軍のMDTFは、マルチドメイン効果大隊(MDEB)、長距離火力大隊(LRFB)、統合火力防護能力(防空砲兵)大隊(IFPC)および旅団支援大隊(BSB)から構成される。

 MRCは、LRFBの下で、長距離極超音速兵器(LRHW)中隊および高機動ロケット砲システム(HIMARS)中隊と並んでMRC(SMRF)中隊として編成されている。

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