福岡県で線状降水帯が相次いで発生した記録的な大雨から9日で1か月です。
被害を受けた道路や農地の復旧が進んでいない地域もあり、生活への影響が続いています。

福岡県では先月9日以降、線状降水帯が相次いで発生し、10日の24時間に降った雨の量が行橋市で302.5ミリ、北九州市八幡西区で261ミリといずれも観測史上最多となるなど、各地で記録的な大雨となり、住宅の浸水や、のり面の崩落などの被害が相次ぎました。

このうち、岡垣町波津の吉田喜久男さんの田んぼには近くの川から水や土砂が流れ込み、6分の1ほどの稲がなぎ倒されたため、例年と比べて収穫量は落ち込んでいるということです。

しかし、吉田さんによりますと、ほかにもびわの畑が被害を受けて復旧に追われているほか、野菜の植え付けの時期を迎えているため、田んぼにたまった土砂の片づけは進んでいないということです。

吉田さんは「このままだと、田植えをした時に田んぼに高低差が出てしまってコメ作りがうまくいかない。今はすることがたくさんあって、田んぼまで手が回っていないが今年中にはなんとか片づけたい」と話していました。

また、田んぼから270メートルほど離れた町道は土砂崩れの影響でいまも通行止めとなっていて、町によりますと、町道沿いにある湯川地区の住民43人などは現在もう回を余儀なくされているということです。

町では、国の補助金を活用して本格的な復旧を行うことにしていますが、通行止めの解除は早くても来年の春になる見込みだということで、一連の大雨による生活への影響が続いています。

【記録的大雨から1か月 “急な避難指示” 】

先月9日以降の記録的な大雨では、各地で避難に関する情報が出されました。

このうち、北九州市は先月9日午後10時すぎ、土砂災害のおそれがあるとして、土砂災害警戒区域などに住む15万2110世帯、あわせて28万5004人を対象に避難指示を出しました。

避難指示は、5段階の警戒レベルのうちレベル4にあたる情報ですが、市内にはこの時点で、避難に時間がかかる高齢者や体の不自由な人などに避難を始めるよう呼びかけるレベル3の「高齢者等避難」の情報は出ていませんでした。

当時の状況について、北九州市危機管理室の渡邉智之災害対策担当課長は「当初は10日の朝から天候が悪化するという情報だったので、そのつもりで私たちも準備をしていた。急に天候が悪化して土砂害警戒情報が市内に出たので、避難指示を出さざるを得なかった」と振り返っています。

福岡管区気象台は先月9日の午前11時に、福岡県で線状降水帯が発生し、大雨となる可能性があるとして、線状降水帯への警戒を事前に呼びかけていました。

ただ、線状降水帯は場所や時間を正確に予測することが難しく、北九州市内では9日の夜に入ってから発達した雨雲が次々と流れ込み、急激に土砂災害のリスクが高まったため、28万人余りに一斉に避難指示を出す必要に迫られたということです。

北九州市危機管理室の渡邉担当課長は「私たちも、出てきた自然現象に対して対処していくしかない。避難情報の発令とか、あるいはその情報発信についてしっかり努力を重ねていくので、ひと事でなく自分事としてしっかり備えを積み重ねてほしい」と話していました。

【記録的大雨から1か月 板櫃川で氾濫の危険度が高まる】

先月の記録的な大雨では、北九州市内を流れる複数の川で一時、氾濫の危険度が高まっていました。

小倉北区や八幡東区を流れる板櫃川では、先月10日の午前中から水位が上昇。

午後5時前、小倉北区上到津にある観測所で「氾濫危険水位」の2.5メートルを超えました。

当時の状況について、川の近くに住む男性は「自宅がアパートの9階で家の中にいたほうが安全だと思い、家で雨の様子を観察していた。川の様子が気になったので、何度も何度も見ていたが、水位があっという間に上がって、川沿いの遊歩道に茶色い水がかぶっていた」と話しています。

福岡県では先月9日から10日にかけて相次いで「線状降水帯」が発生し、北九州市では先月10日、八幡西区で午後5時までの1時間に50.5ミリの非常に激しい雨を観測していました。

その後、発達した雨雲は北九州地方から遠ざっていき、板櫃川の水位はしだいに低下し、氾濫は免れました。

防災工学に詳しい、九州工業大学大学院工学研究院の川尻峻三准教授は「最後にもう一度、北九州地方に雨雲がかかるかもしれないと思ったが熊本県のほうに南下していった。この雲がもし、福岡県にかかっていたら川の水位が上がってしまって、被害が発生した可能性もゼロではない」と話しています。

その上で「線状降水帯」など急激な事態の悪化に備えるためにも、「自分は大丈夫だ」と思い込まず、自分事として考えることが大切だと指摘しています。

川尻准教授は「自治体が避難情報を出した時点で、かなり危機が迫っている。自分に危機が迫っているのだと、自分事として考えるスイッチを押せるかどうかが大事だ。地域のこの川があふれたらどうなるのだろうとか、この道路が寸断されたらどうなるのだろうなどと、最悪の事態を想像しながら日々の生活を送ってほしい」と話しています。

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