韓国の商工業都市・蔚山にそびえる東横INN。日本と違い韓国では高層で建設できる(写真:筆者)

日本で客室数トップのホテルチェーンといえば東横INN(会社表記は東横イン)の名前が思い浮かぶだろう。現在、国内342店舗、海外17店舗(8月1日時点)を擁する東横INNの最大の特徴はコンパクトで清潔な室内とコストパフォーマンスの良さ。そんな巨大ホテル網の東横INNは、2008年4月に「釜山駅中央洞」店を開業以来、韓国全土に次々と店舗を増やし現在13店を数えるなどすっかり現地に定着した。なぜ東横INNは韓国で成功したのだろうか。その道のりは「ビジネスホテルという概念」がなかった韓国への挑戦状でもあった。

(鄭 孝俊:フリージャーナリスト)

「わあ、すごい量だな」朝食の品数の多さに驚く宿泊客

 韓国の東南に位置する工業・商業都市の蔚山(ウルサン)。ランドマークである巨大な観覧車近くにそびえる東横INN蔚山三山洞店は韓国人客を中心に満室状態だった。その日は3連休の最中で夕方になると、釜山や大邱(テグ)など近隣大都市からやって来た地元観光客が次々とチェックイン。

 驚いたのは翌朝の朝食の時間帯。1階の会場には50人ほどの長い列ができていた。宿泊客から聞こえてくるのはほぼ韓国語だ。日本と同じ無料のビュッフェスタイルだが、並んでいるメニューは韓国料理。豚肉とネギの甘辛炒め、豆腐の韓国風煮込み、もやしとわかめのスープ、ゆで卵、パン、野菜サラダ、フルーツ、ご飯など豊富なメニューが食べ放題。

 品数の多さに宿泊客から「わあ、すごい量だな」の声が上がった。フロント横の冷蔵庫内には蔚山の地ビールが並んでおり500ml入りが3500ウォン(約380円)と廉価で販売されていた。

 前述の通り、東横INNが韓国で新店舗を開業したのは2008年だ。東横INNはなぜ韓国への進出を決めたのか。

 日韓両国は1996年に「2002 FIFAワールドカップ」の共同開催を発表し、その後数年間にわたって大会の準備のために両国の人的交流が活発化。98年には韓国の金大中大統領が国賓として来日し小渕恵三首相と日韓パートナーシップ宣言を発表した。

 2000年代に入ると韓国ドラマ「冬のソナタ」の大ヒットによる第1次韓流ブームが巻き起こり、2010年頃からはK-POPグループの日本進出が本格化する第2次韓流ブームが始まった。これに伴い日韓の人的交流はさらに活発化する。こうした中、日本に出張する韓国人が経験したのが日本型ビジネスホテルだったという。

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