アングル:欧州の防衛技術産業、退役軍人率いるスタートアップが存在感

 9月4日、元ドイツ陸軍将校マット・クッパース氏は、オーストリアのスタートアップが開発した対ドローン兵器の品質を調べた際、若手の民間創業者たちが見落としていた問題点に気付いた。写真は現役時代の訓練中のクッパース氏。ドイツ国内で2024年5月撮影。同氏提供(2025年 ロイター)

[プラハ/ストックホルム 4日 ロイター] – 元ドイツ陸軍将校マット・クッパース氏は、オーストリアのスタートアップが開発した対ドローン兵器の品質を調べた際、若手の民間創業者たちが見落としていた問題点に気付いた。繰り返し発砲すると砲身が熱を帯びて命中精度が落ちるのだ。

クッパーズ氏は「彼らは長時間発砲を続けている間に砲身が熱を帯び、その熱が原因で照準の精度が微妙にずれる可能性があると気付いていなかった」と語った。同氏が共同創設者を務める「ディフェンス・インベスト」は、ドイツと英国の元兵士からなるベンチャー企業で、オーストリア軍とともに対ドローン兵器の技術試験を実施している。

ロシアのウクライナ侵攻に伴って欧州の防衛技術産業に対しかつてない規模の投資が流れ込む中、このように退役軍人たちが企業の役員会や研究開発にもたらす知見によって、業界の様相が一変しつつある。

ロイターの分析によると、退役軍人たちが欧州の防衛スタートアップ80社以上のうち4分の1を率いている。一方で、欧州の防衛企業大手10社の最高経営責任者(CEO)たちは軍務経験が全くない。

ロシアのウクライナ侵攻と北大西洋条約機構(NATO)の防衛費拡大を契機として、ドイツのラインメタル(RHMG.DE), opens new tabのような大手だけでなく、米国に大幅に遅れを取っていたスタートアップにも投資が記録的な水準まで流れ込んでいる。

NATOイノベーション基金とディールルームのデータによると、2024年のベンチャーキャピタル投資は52億ドルと、ロシアのウクライナ侵攻以前から500%超の急増となった。

<「経験のない問題は解決できず」>

退役軍人主導のスタートアップはウクライナの最前線の経験に基づき、開発に要する期間を数年間から数週間または数カ月間に短縮した。

無人地上車メーカーARXロボティクスを設立した元ドイツ軍将校のマルク・ヴィートフェルト氏は「経験したことがない問題は解けない」と語った。

NATOの防衛予算が増大している状況で、退役軍人が起業家として活躍する機会も欧州で一段と広がっている。

<戦場で実証済みの技術>

退役軍人の起業家ブームを支えるのは、ウクライナの新たな防衛市場、記録的なベンチャーキャピタル投資、製品開発を加速させる人工知能(AI)ツールの3要素だ。

元ドイツ軍ヘリ操縦士のフロリアン・ザイベル氏はドローンメーカーのクアンタム・システムズを共同創業し、時価総額10億ドル余りまで成長させた。

他にも元英陸軍兵士が立ち上げた戦闘計画ソフトウエア開発企業アロンダイト、ノルウェーの退役軍人が創業した訓練機材会社ブリンクトロールなどの企業が存在する。

元オーストラリア軍戦闘技術者フランシスコ・セラマルティンス氏が22年に設立したターミナル・オートノミーは、自爆型ドローンから巡航ミサイル開発に事業を拡大した。「退役軍人は戦場でどのような解決策が欠けているのかまず把握し、何が効果をもたらすのかよく理解している」と語った。

<スタートアップ投資の急増>

マッキンゼーの分析によると、欧州の防衛技術スタートアップに対する投資は21―24年で18―20年に比べて500%超の飛躍的な増加を見せた。退役軍人たちが創業者やアドバイザー、投資家として中心的な役割を担っている。

退役軍人らによると、大手の防衛企業に入るよりも自ら防衛企業を立ち上げる方が簡単だという。技術革新によって参入障壁が下がり、専門的な技能を持つ人々は従業員よりもむしろ起業家になる道が開けている。

ボスニアやアフガニスタンで従軍経験のある元フィンランド軍兵士でダブル・タップ・インベストメントの創設者のヤンエリック・サーリネン氏は「ウクライナに防衛技術を売り込むならば、実際に戦闘経験のある兵士たちを採用する必要がある」と述べた。

ウクライナ第3強襲旅団の兵士ビクトリア・ホンチャルク氏は無人車両が書類上は良く見えても実戦で役に立たなかったため30万ユーロを無駄にしたと指摘。「軍人が創業する企業がもっとたくさん増えてほしい」と打ち明けた。

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Supantha Mukherjee

Supantha leads the European Technology and Telecoms coverage, with a special focus on emerging technologies such as AI and 5G. He has been a journalist for about 18 years. He joined Reuters in 2006 and has covered a variety of beats ranging from financial sector to technology. He is based in Stockholm, Sweden. 

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