(写真:ロイター)

 

[ロイター]米トランプ政権が輸入医薬品への高関税導入を検討していることを受け、グローバル製薬企業は米国での生産能力増強と在庫積み増しに躍起になっている。

 

英国、EU(欧州連合)、韓国、日本は関税を15%程度に抑えることで米国と合意しており、こうした国・地域との取引が多い企業は相対的に有利な立場にあると考えられる、しかし、ほとんどの国はまだ米国と交渉中で、多くの企業は最終的な関税率が明らかになるまで経営判断を先送りしている。

 

グローバル製薬企業が現時点で行っている関税対策をまとめた。

 

イーライリリー

米イーライリリーは、今後5年で270億ドルを投資し、米国に4つの新工場を建設する予定だ。今年の第3四半期(7~9月期)中に2つの新工場の場所を発表することを目指している。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソン

米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、向こう4年間の米国への投資を従来の計画から25%増やし、総額550ドルに引き上げる方針だ。今後10年で4つの工場を建設する予定で、このうちの1つはノースカロライナ州ウィルソンに、もう1つは同州ホリースプリングスにある富士フイルムバイオテクノロジーズの製造拠点に整備する。残り2つの場所はまだ明らかにされていない。

 

ロシュ

スイス・ロシュは4月、今後5年間で米国に500億ドルを投資すると発表した。

 

その1カ月後には、インディアナポリスの診断薬製造ハブを拡張するため、追加で5億5000万ドルを投資すると発表した。この拡張はインディアナ州、ペンシルベニア州、マサチューセッツ州、カリフォルニア州にまたがり、1万2000人以上の雇用を創出するという。5月にはさらに、ノースカロライナ州ホリースプリングスに7億ドル超を投じて新薬製造施設を建設する計画を明らかにした。

 

トーマス・シネッカーCEO(最高経営責任者)は7月、関税導入を見越して在庫を移動させるとともに、米国で生産しているすべての医薬品の生産を増強していると述べた。

 

アストラゼネカ

英アストラゼネカは、2030年までに米国での製造に500億ドルを投資する。この投資は、同社の単一拠点としては世界最大となるバージニア州の新原薬製造施設と、メリーランド、マサチューセッツ、カリフォルニア、インディアナ、テキサス各州の施設の拡張に充てられる。

 

同社はすでに技術移転を開始しており、あわせて関税影響を最小化するための在庫管理を進めている。同社幹部は、関税の影響は「ごく短期間」にとどまるとの見通しを示している。

 

ノバルティス

スイス・ノバルティスは、米国に10の拠点を建設・拡張するため、今後5年間で230億ドルを投じる計画だ。計画には、6つの新工場建設と、1000人以上の雇用創出が見込まれるサンディエゴの研究開発サイト拡張が含まれる。

 

サノフィ

仏サノフィは、米国での製造と研究を強化するため、2030年までに200億ドル以上を投資する。自社施設への直接投資や他社との提携を通じ、米国での製造能力を拡大する方針だ。

 

フランソワ・ロジェCFO(最高財務責任者)は7月、米国で在庫の積み増しを行っており、2025年の関税の影響は限定的だとの見通しを示した。

 

バイオジェン

米バイオジェンはノースカロライナ州の既存工場に20億ドルを投資。遺伝子標的療法の生産能力を拡大するとともに、自動化を進める。同社は同州に7つの工場を持っており、今年後半には8つ目の工場が稼働を開始する予定だ。

 

メルク

米メルクは、がん免疫療法薬「キイトルーダ」などのバイオ医薬品を製造するデラウェア州の新工場に10億ドルを投資。4500人超の雇用創出を見込む。3月にはノースカロライナ州に10億ドル規模の施設を開設した。

 

動物用医薬品部門では、カンザス州にある製造・研究開発拠点の拡張に8億9500万ドルを投資する予定。これは、2028年までに予定されている90億ドル規模の米国投資計画の一環だ。

 

ロバート・デイビスCEOは7月、今年の潜在的な関税による影響は最小限にとどまると述べ、在庫管理と米国への製造移転によって有利な立場にあるとした。

 

アムジェン

米アムジェンは、オハイオ州の製造施設拡張に9億ドルを投資。同州への総投資額を14億ドルに引き上げ、雇用を750人増やす計画だ。昨年12月にはノースカロライナ州ホリースプリングに2つ目の施設を建設するため、10億ドルを投じた。9月には、カリフォルニア州サウザンドオークスにある本社に6億ドル以上を投じて新たな研究開発センターを建設していると発表した。

 

ファイザー

米ファイザーは今年初め、米国内にある10の施設と2つの配送センターには十分な能力があり、関税にも対応できると強調。必要に応じてこれらの施設への生産移転を検討するとしている。

 

ノボノルディスク

デンマーク・ノボノルディスクは8月、米国の強力な製造拠点によって関税への対応力を高めているとし、「きわめて米国中心的であり、米国に焦点を当てている」と述べた。

 

アッヴィ

米アッヴィは今後10年間で米国の施設拡張に100億ドルを投じる計画を継続する意向を表明した。同社はすでに米国内に11の製造拠点を持っており、在庫管理策を講じているため関税影響を「かなり免れている」としている。

 

ギリアド・サイエンシズ

米ギリアド・サイエンシズは今年初め、米国内の製造・研究拠点の拡充を目的とする110億ドルの新たな投資計画を発表。これにより、米国への一連の投資総額は320億ドルに達した。

 

同社は9月、カリフォルニア州フォスターシティの本社で開発・製造拠点の建設を始めたと発表した。現在、さらに2つの拠点の整備を進めている。

 

シプラ

インドのシプラは、マサチューセッツ州フォールリバーとニューヨーク州ロングアイランドのセントラルアイスリップにある先進的な施設で、複雑な呼吸器系製品の生産拡大に投資している。

 

(取材:Siddhi Mahatole/Kamal Choudhury/Puyaan Singh、編集:Devika Syamnath/Leroy Leo、翻訳:AnswersNews)

 

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