最終日にアルゼンチン代表FWニコラス・ゴンサレス(アトレチコ・マドリード)、元スペイン代表MFカルロス・ソレール(レアル・ソシエダード)、チリ代表FWアレクシス・サンチェス(セビリア)などが慌ただしくやって来た、スペインリーグの今夏の移籍市場が9月1日に終了した。

特にマドリードの2クラブが派手な動きを見せた一方、バルセロナを筆頭にヘタフェやセビリアなど、多くのクラブが財政難やサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)に苦しめられ、昨夏同様に期限付き移籍やフリーでの補強が目立っている。

アレクシス・サンチェス(2014年6月28日撮影)アレクシス・サンチェス(2014年6月28日撮影)

■サラリーキャップ問題から売却

スペインリーグ全体の今夏の補強額は7億825万ユーロ(約1204億250万円)。昨夏から約1億6000万ユーロ(272億円)増となったが、過去最高を記録した19-20年シーズンに比べると約6億ユーロ(約1020億円)少なく、コロナ禍以降、多くのクラブの財政面はまだ厳しい状態にある。

欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)の補強総額に目を向けると、プレミアリーグが過去最多の35億8200万ユーロ(約6089億4000万円)を記録し、例年同様に他者を圧倒した。

これに続き、セリエAが11億7600万ユーロ(約1999億2000万円)で2年連続の2位。昨夏4位のブンデスリーガが8億1553万ユーロ(約1386億4010万円)で3位、昨夏3位のフランスリーグが6億1800万ユーロ(約1050億6000万円)で最下位となった。

昨夏最下位のスペインリーグは4位にステップアップしたものの、依然としてプレミアリーグとの差は非常に大きい。昨夏の17億6600万ユーロ(約3002億2000万円)から28億7375万ユーロ(約4885億3750万円)に開いている。

スペインリーグの補強総額がプレミアリーグの約5分の1である理由として、スポンサー料や放映権料の違いや、各クラブに課されている厳しい財政管理が挙げられる。23-24年シーズンの放映権料を例にすると、プレミアリーグ最下位のシェフィールド・ユナイテッドは1億3230万ユーロ(約224億9100万円)の収入を得ていたが、これはスペインリーグ3位のAマドリードよりも約1500万ユーロ(約25億5000万円)も多く、最下位アルメリアの約3倍である。

財政管理の苦悩に関しては、ヘタフェのアンヘル・トーレス会長が「我々は選手を売却する必要がある。それによってスペインリーグは台無しになるが、ルールはルールだ。我々はそれを遵守しなければならない。ウチェを売却せざるを得ないだろう」と吐露したことでも分かるだろう。最終的にヘタフェはサラリーキャップの問題をクリアするため、移籍市場最終日にこのスター選手をクリスタルパレスに期限付き移籍させ、新戦力7人の登録にこぎつけていた。

レアル・マドリード入団会見に臨むマスタントゥオーノ(AP)レアル・マドリード入団会見に臨むマスタントゥオーノ(AP)

■レアル304億円で4選手補強

スペインリーグで今夏最も多くの補強費を投じたのは、長年チームを支えたモドリッチ、ルーカス・バスケスが退団し、アンチェロッティからシャビ・アロンソへの監督交代を行ったレアル・マドリード。特に守備陣の強化に努め、計1億7900万ユーロ(約304億3000万円)を費やして、今夏のスペイン最高額の移籍金6300万ユーロ(約107億1000万円)でリバープレートからやって来た18歳の若いアルゼンチン代表MFマスタントゥオーノ、スペイン代表DFハイセン、イングランド代表DFアレクサンダー=アーノルド、スペイン人DFカレーラスを獲得した。

Aマドリードは1億7800万ユーロ(約302億6000万円)で僅差の2位。デ・パウル、コレアなどの功労者8人の退団により大改革を実施。4200万ユーロ(約71億4000万円)で獲得したスペイン代表MFバエナを筆頭に、アメリカ代表MFジョニー・カルドーゾ、アルゼンチン代表MFアルマダ、イタリア代表FWラスパドーリ、アルゼンチン代表FWニコラス・ゴンサレスなど8人を補強した。

補強総額が3番目に多いチームは1億100万ユーロ(約171億7000万円)のビリャレアル。売却したバエナとジェレミ・ピノの穴を埋めるため積極的に動き、クラブ史上の最高額3000万ユーロ(約51億円)でジョージア代表FWミカウタゼを獲得した。さらに、ポルトガル代表DFレナト・ベイガ、U-21スペイン代表FWアルベルト・モレイロなど、効果的な補強を行っている。

続いて、待望のブラジル代表FWアントニーを2600万ユーロ(約44億2000万円)で獲得したベティスが7530万ユーロ(約128億100万円)で4位。2季前に得点王に輝いたドフビクの再来と期待されるウクライナ代表FWバナトを1700万ユーロ(約28億9000万年)で補強したジローナが2920万ユーロ(約49億6400万円)で5位につける。

マーカス・ラッシュフォード(2022年11月22日撮影)マーカス・ラッシュフォード(2022年11月22日撮影)

■バルサはラッシュフォードのみ

依然としてサラリーキャップの問題を抱えているバルセロナは2750万ユーロ(約46億7500万円)で6位。スペイン人GKジョアン・ガルシア獲得に2500万ユーロ(約42億5000万円)、U-21スウェーデン代表MFバルドグジに250万ユーロ(約4億2500万円)を費やし、イングランド代表FWラッシュフォードを期限付き移籍で補強したのみ。その一方、イニゴ・マルティネス、パブロ・トーレ、イニゴ・マルティネスなどがチームを離れている。

久保建英を擁するRソシエダードは大黒柱スビメンディを失ったにもかかわらず、スペインリーグで唯一、8月まで補強に動かないクラブになっていたため、不安視されていた。最終的に今夏7番目に多い2150万ユーロ(約36億5500万円)を投じ、クロアチア代表DFチャレタ=ツァル、元ポルトガル代表FWゲデス、ベネズエラ代表MFヤンヘル・エレーラ、カルロス・ソレールを獲得した。その一方、戦力外のサディクとオドリオソラを放出できなかった。

浅野拓磨が2年目を迎えたマジョルカはバルセロナのスペインMFパブロ・トーレ、FWビルジリなどを獲得し、850万ユーロ(約14億4450万円)で13位。財政難のセビリアは今夏唯一、補強費をまったく使わないクラブとなった。

スペインリーグ全体の今夏の移籍金収入は、前年比約6000万ユーロ(約102億円)増の6億4290万ユーロ(約1092億3000万円)。支出額をやや下回る金額となった。その中でトップは下部組織出身の主力を2人放出したビリャレアル。唯一1億ユーロ超えの1億600万ユーロ(約180億2000万円)もの収入を得ている。

これに、スビメンディを今夏のスペインリーグ最高額7000万ユーロ(約119億円)でアーセナルに売却したRソシエダードが8000万ユーロ(約136億円)、Aマドリードが7800万ユーロ(約132億6000万円)、ベティスが6182万ユーロ(約105億940万円)、セビリアが5900万ユーロ(約100億3000万円)で続く。

バルセロナは2300万ユーロ(約39億1000万円)で10位。Rマドリード、オビエド、ラヨ・バリェカノの3チームは0ユーロだった。

レアル・ソシエダード久保建英(ロイター)レアル・ソシエダード久保建英(ロイター)

■開幕3試合終えRソシエダード17位

今夏の移籍市場が終わり、メンバーが確定した各クラブはこの後、本格的にワールドカップイヤーに臨むことになる。リーグ戦3試合を消化した中、多額の投資を行ったRマドリードとビリャレアルがそれぞれ首位、3位と幸先の良いスタートを切った一方、Aマドリードは16位と大きく低迷している。また、昨季の王者バルセロナは4位につけ、未だ勝利のないRソシエダードは降格圏一歩手前の17位に沈んでいる。この状況がどのように変化していくのか、その動向を追っていきたい。

<今夏のスペインリーグ各クラブの補強費>

1、Rマドリード 1億7900万ユーロ(約304億3000万円)

2、Aマドリード 1億7800万ユーロ(約302億6000万円)

3、ビリャレアル 1億100万ユーロ(約171億7000万円)

4、ベティス 7530万ユーロ(約128億100万円)

5、ジローナ 2920万ユーロ(約49億6400万円)

6、バルセロナ 2750万ユーロ(約46億7500万円)

7、Rソシエダード 2150万ユーロ(約36億5500万円)

8、エスパニョール 1400万ユーロ(約23億8000万円)

9、セルタ 1350万ユーロ(約22億9500万円)

10、ビルバオ 1200万ユーロ(約20億4000万円)

11、バレンシア 1030万ユーロ(約17億5100万円)

12、アラベス 1010万ユーロ(約17億1700万円)

13、マジョルカ 850万ユーロ(約14億4450万円)

14、エルチェ 675万ユーロ(約11億4750万円) 

15、ラヨ・バリェカノ 610万ユーロ(約10億3700万円)

16、オサスナ 500万ユーロ(約8億5000万円)

17、レバンテ 400万ユーロ(約6億8000万円)

18、オビエド 350万ユーロ(約5億9500万円) 

19、ヘタフェ 300万ユーロ(約5億1000万円)

20、セビリア 0ユーロ

【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

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