ロシアが進めた外貨準備の多様化はウクライナ侵攻で破綻した。写真はロシア中央銀行(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 今年4月、いわゆる「トランプ関税」をきっかけに生じたドル不安を受けて、新興国がドル離れを進めるのではないかという思惑が強まった。一方、新興国の立場で考えれば、ドル離れのそもそものトリガーは、ロシアに対する強力な経済・金融制裁だったと言えよう。具体的には、米財務省外国資産管理室(OFAC)によるドルの利用規制だ。

 OFACはロシアの事業者を制裁対象に定め、その事業者とドルで取引した第三国の事業者と米国の事業者の取引を禁じることを通じて、ロシアをドル決済網から追放した。この強力な「二次制裁」のスキームを目前に、新興国の間でドルの利用を手控える動きが広がる可能性は、ジャネット・イエレン前財務長官も率直に認めるところだった。

 もちろん、新興国の中には親米の国も多く存在する。そうした国はドル離れを進める政治的な動機を持つわけではないが、反米の国は戦略的にドル離れを進めようとする。実際、中国との貿易が人民元で行われる機会が増えている事実もあるが、ドルに代わる国際流動性は存在しないため、ドル離れの動きは緩慢にしか進みようがない。

 ここで、ドル離れの先駆者とも言えるロシアの外貨準備戦略の推移を概観してみたい。

 ロシアは2014年2月にクリミアに侵攻し、その際に主要国から経済・金融制裁を科された。それ以降、ロシアは外貨準備の多様化と金準備へのシフトを加速させた(図表1)。外貨準備の多様化は、ドルを他の国際通貨に替えることで実行された。

【図表1 ロシアの外貨準備の構成割合の推移】

(出所)ロシア中銀

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 しかしながら、2022年2月のウクライナ侵攻に際して、欧州連合(EU)や英国、日本が米国による制裁に同調し、自国通貨の利用を禁じたことで、外貨準備の多様化は実質的に意味をなさなくなった。現在、ロシア中銀の統計に計上されている外貨準備の多くが、実質的にはアクセスできないドルやユーロ、ポンド、円だと考えられる。

 他方で金準備に関しても、興味深い事実が存在する。

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