冷戦終結後、米国は地域的な核紛争へとシナリオを切り替え、紛争を終結させる戦略を描いた。しかし、米国とイスラエルのイラン攻撃はその前提を揺るがし、米国の「核の傘」への信頼も落とした。
米国のイラン攻撃は新核作戦計画「オープラン」を逸脱した
6月に始まったイスラエルによるイラン攻撃は米国も加わり、同25日に停戦した。ただイランが再度核開発を加速させる可能性も残り、イランの「核脅威」は先送りされただけに過ぎない。
イスラエルは6月13日、イランの核関連施設などに大規模な空爆を展開。米国も22日未明、イラン中部のナタンツ(ウラン濃縮工場)、フォルドゥ(ウラン濃縮工場)、イスファハン(遠心分離機製造工場)──などを攻撃した。トランプ大統領は「真夜中の鉄つい作戦」と命名し、「世界最大のテロ支援国家の核脅威の阻止が目的だ」と主張した。
イランが停戦に応じた同25日には、米軍による攻撃が「戦争を終結させた」と主張。広島や長崎への原爆投下と「本質的に同じだ」と述べた。トランプ大統領はなぜ広島、長崎を例に挙げたのか。大統領に不見識があることはもちろんだが、イラン攻撃には米国の新核作戦計画「OPLAN(オープラン)8010-12」が根底にあったためではないかと筆者は推測している。
冷戦時代での米国の核作戦計画としては、米ソの世界全面核戦争を想定した「単一統合作戦計画」(SIOP)があった。しかし1991年のソ連崩壊でそのリスクは消えた一方、北朝鮮などへの核拡散が懸念され、経済・軍事超大国に変貌した中国が海洋権益の拡張を目指し、低威力の短・中距離核ミサイルを威嚇手段に使うようになった。周辺国にとって危険な「核の火遊び」が広がった。
こうした構図の変化に合わせ、シナリオを地域的な「ミニ核戦争」へ切り替え、オープランとして再編したのがオバマ政権だ(2012年7月)。米科学者連盟(FAS)の開示請求によ…
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週刊エコノミスト
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