奈良県五條市にある西吉野農業高校は、全国でも珍しい定時制農業高校だ。2021年に開校、全国から生徒が集まる。なぜ若者は、農業科しかない小さな高校を選ぶのか。現役の生徒と卒業生、生徒たちを受け入れる地元農家らに取材した。(取材・文:神田憲行/撮影:宗石佳子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
宝石箱を開けるように見せてくれた 手の中の野菜
奈良県中西部にある五條市立西吉野農業高校。敷地内のあちこちに実習用の畑がある。
4年生の光本心透(しと)さんが畝(うね=作物を植え付けるために土を盛り上げたもの)の脇にしゃがんで小さな実を取った。それを両手でそっと包んで、まるで宝石箱を開けるように私に見せてくれた。小さなナスのような実だ。
「紫唐辛子という、奈良特産の大和野菜の一つです。唐辛子ですが、甘いんですよ」
同級生の東晴人さんが畝にかかった白いカバーを指す。
「土の中の温度を一定に保つこと、葉が土に触れて虫に食われたり菌で病気になったりすることを防いでくれます」
「あっちに五條市から栽培実験を委託された畝がありますよ」と案内してくれた畑は、畝が4本走っていた。赤オクラという、さやの表面が赤いオクラを植えている。4本あるのはそれぞれにまいた肥料を変えているからだ。どの肥料をやるとどう育つのか、比較実験をしている。
「わ、これは育ちすぎたかも……」と光本さんが一本の畝から慌てたように実を取って東さんに見せた。確かに20センチくらいある。「うーん育ちすぎかな」と東さんもクビをひねった。
西吉野農業高校は2021年に開校した、全国的にも珍しい昼間定時制の農業高校だ。教頭の中久保孝徳先生は開校の経緯をこう話す。
「五條市は柿の名産地で、市町村別生産地として日本一です。しかし、他の農業地域と同様に、働き手不足と高齢化の問題を抱えています。そこで、地域の農業の担い手育成のために、前身の五條市立奈良県立五條高校賀名生(あのう)分校が閉校したのに伴い、市立の農業高校として新しくスタートしました」
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