トランプ大統領の発言が相変わらず原油市場を揺らしている(写真:UPI/アフロ)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=63ドルから65ドルの間で推移している。ロシア産原油の輸出などに支障が生じていることが意識され、価格のレンジは先週に比べて2ドルほど上昇している。
まず原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
ロイターは8月26日「8月のロシア西部3港からの原油輸出量は当初計画の日量180万バレルから同約200万バレルに達する見込みだ」と報じた。ウクライナのドローン(無人機)攻撃によりロシアの10カ所の製油所の操業が中断され、より多くの原油が輸出に回されることになった結果だ。ロイターの試算によれば、ロシアの国内処理能力は少なくとも17%(日量110万バレル)減少している。
ロシア産原油の海上輸出にも支障が生じている。ウクライナの28日のドローン攻撃で、バルト海に面するロシアのウスト・ルガ港からの原油輸出が半減した。
ロシアの陸上での原油輸出もあやうくなっている。
ウクライナは21日、ロシア産原油を欧州に輸送する幹線パイプライン「ドルジバ・パイプライン」を空爆したため、導管が損傷し、欧州への原油輸送が停止した。同パイプラインは世界最長の原油パイプラインで、欧州向けの主要ルートだ。
同パイプラインは28日に原油の輸送を再開したが、18日にも攻撃を受けて輸送が止まり、20日に操業が開始されたばかりだった。
ウクライナは「ロシア軍に燃料を供給しているため、同パイプラインを攻撃対象にした」と説明している。だが、ロシア産原油に依存するハンガリーやスロバキアはウクライナに対して「我々のエネルギー安全保障に対する新たな攻撃だ」と猛反発している。
ハンガリーのオルバン首相は22日にSNSに投稿したメッセージで「こんなことは聞きたくない。とても怒っている」と記したトランプ米大統領の手書きのメモを公開している。ウクライナの攻撃で原油価格が上昇すれば、米国のガソリン価格も上がるリスクが生じるからだ。
15日の米ロ首脳会談後、ロシアとウクライナの和平交渉は展望が開けない状況が続いている。これに業を煮やしたトランプ氏は22日「2週間以内に和平交渉が進展するかどうか方向性が決まる」と見解を示し、26日には「(交渉が決裂すれば)経済戦争になる」とロシアに歩み寄るよう圧力を強めた。
だが、対ロ制裁は原油価格が急騰するリスクがあるため、トランプ氏にとって切りたくないカードだ。
トランプ氏の行動が読みにくいため、市場では「事態の進展を見極めたい」との雰囲気が強く、原油価格の値動きが小さくなっている。

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