蝶と歩んだ人生

 ○…可憐に舞う蝶に魅せられ、観察をライフワークとしてきた。前回発行した冊子から6年の時を経て、このほど、2008年から17年までの観察記録を再編集した「鎌倉市の蝶 附 神奈川県産蝶の生息動向」を出版した。9月に88歳を迎える記念として、「生きた証として残しておきたかった」と、長年の探求の集大成を手に穏やかに語る。

 ○…宇都宮市で育ち、幼い頃から「きれいだから」と蝶が好きだった。当時は今のように手軽に情報が得られず、高校時代には図書館の図鑑をノートに書き写すなどして、独学で知識を深めたという。宇都宮大学で昆虫学を専攻し、卒業後はJA全農に就職。全国を巡って農家や農協職員に農薬の使い方を指導した。社会人になっても昆虫への情熱は衰えず、愛好家仲間とともにヨーロッパや東南アジアなどに採集旅行に出かけたほか、研究会に所属し、情報交換を行ってきた。

 ○…35歳で結婚し、男女2人の子どもを授かったが「多忙で一緒に遊ぶ時間がなかなか取れなかった」と振り返る。「2人とも立派に独立して、本当に妻に感謝ですね」とほほ笑む。1977年に鎌倉市へ移り住み、しばらく昆虫からは離れていたが、退職を機に情熱が再燃。70歳で「地元の蝶を記録しよう」と決意。それから10年以上にわたり、鎌倉中央公園や広町緑地など市内各所を歩き回り、蝶の生態を記録してきた。

 ○…著書は、小中学生にも分かりやすい言葉で解説する一方で、専門用語も散りばめることで、読み応えのある一冊に仕上げた。「この記録が、鎌倉の自然を考えるきっかけになればうれしい」。思いが詰まった冊子は、市内の小中学校や図書館に寄贈され、未来へと引き継がれていく。

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