プレミアリーグプレミアリーグ 写真:Getty Images

イングランドのプレミアリーグは、世界で最も人気があり経済的にも成功している。そのイギリス(英国)で、新たに「フットボール・ガバナンス法」が制定された。これはサッカー界における統治のあり方を大きく変える可能性を持つ、重要な制度的転換である。

世界的にも珍しい包括的な規制法は、どのような背景から生まれたのだろうか。今後、世界のサッカー界に影響を及ぼす可能性もあり、日本の事例にも照らし合わせながら展望してみたい。

プレミアリーグ 写真:Getty Images

フットボール・ガバナンス法とは?

7月8日にイギリス下院で賛成415票、反対98票で可決され、7月21日に国王裁可を受けて成立したフットボール・ガバナンス法。この法律の下、独立フットボール規制機関(IFR)が設置され、1~5部(プレミアリーグ、EFLチャンピオンシップ、EFLリーグ1、EFLリーグ2、ナショナルリーグ)のクラブ経営を監督することとなった。

規制の対象は、クラブの財務状況やライセンス管理、オーナーや役員の適格性、そして地域社会やコミュニティへの責任まで多岐にわたる。クラブはIFRに財務報告を提出し、債務超過や不正会計がある場合には制裁を受ける。また、オーナーや役員は適格性テストを受け、経済的健全性や犯罪歴の有無が審査される。さらに、クラブ経営が地域に悪影響を及ぼす場合には、IFRが経営改善計画の提出や運営への介入を求めることができる。財源は、対象クラブが支払うライセンス料から賄われる。

クラブ経営の透明性と地域への責任を明確に

サッカーは19世紀に近代スポーツとして日本に伝来したが、英国では各地域の伝統行事として長く親しまれてきた。サッカーを単なるスポーツではなく、祭事の文脈でとらえる文化が、法律制定の背景にある。サッカー発祥の地であり、日本で例えるなら柔道のような存在である。

業績不振の民間企業は倒産するのが常だ。近年の英国サッカー界では、1885年創設のバリーFCが財政難により2019年にEFL除名を余儀なくされた。しかし、サッカークラブは地域の文化財的な位置づけにあり「市場経済の原理」と簡単には片付けられない市民の感情がある。

その直後には、新型コロナウイルスのパンデミックで多くのクラブが経営危機に陥った。さらに、2021年には欧州スーパーリーグ構想が正式発表され、サポーターや選手に一切の相談なく上層部だけで進められたことが大きな反発を招いた。こうした一連の問題を踏まえ、クラブ経営の透明性と地域への責任を明確にする法律が制定されたのだ。

アーセナル サポーター 写真:Getty Images

サッカーの新たな動きには総じて拒絶反応を示す国民性

つまり、サッカー激動の時代を迎えて、鬱積したサポーターの不満を議会が新法としてすくい上げたかたちと言える。競技の統括団体を「フットボール・ガバニング・ボディ」というが、本当にガバメント(政府)が、統括することになったといっても過言ではない。

フットボール・ガバナンス法の公式資料では、欧州スーパーリーグ構想を「有害な分離リーグ」と断定している。米国メジャーリーグサッカー(MLS)にも昇降格はないが、出入りを限定するシステムが英国では特に不評だった。

サッカー母国のイングランドサッカー協会は、国際サッカー連盟(FIFA)の1904年の創設メンバーではなく、1930年の第1回ワールドカップにも参加していない。伝統を重んじるあまりに、サッカーの新たな動きには総じて拒絶反応を示す国民性がある。

暗黒の時代にフットボールリーグを離脱した上位クラブが1992年に創設したのが、プレミアリーグだ。もし当時IFRが存在したならば構想は潰され、現在の成功はなしえず冬の時代が続いていた可能性もあるだろう。

収益分配に関してIFRがバックストップ権限を持ち、下部クラブの財務基盤や持続可能性が焦点になっていることから、今後は下部リーグへ収益が手厚く分配されることが予想される。プレミアリーグ運営側や多くのプレミアクラブからは、懸念が示されている。

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