人気料理家、有元葉子さんによる初の旅エッセイ本ができました。有元さんがこれまでに旅した国々の思い出を振り返りながら、同じ時代を生きる女性としてエールを送ってくれる本です。タイトルは、『旅の記憶 おいしいもの、美しいもの、大切なものに出会いに』。いよいよ8月21日に発売されます!
本書より、有元さんがイタリア、ウンブリアに野草がおいしいレストランがあると聞いて向かったときの話をご紹介します。その地に降り立った瞬間から「ここに住もう」と感じたという土地と出会い、そこからの人生初の家探しをイタリアで行うことになったという経験について、有元さんのドラマチックな実行力に触れてみてください。
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「ここに住む!」と決めた初めてのイタリア
旅はくせになります。旅から帰ると、次の旅の構想がむくむくと湧いてきます。
パリへのひとり旅を皮切りに、私は50代からひんぱんに旅をするようになりました。
ひとりのこともあれば、友人と連れ立っての旅もあります。「よかったわよ、行かない?」と誘えば、「行く! 行く!」と声を上げてくれる仲間がたくさんいて、東南アジアやイタリア、ポルトガルには、大勢でのツアー状態になったことも。
50代は仕事がだんだん忙しくなっていった時期で、放っておくと仕事はキリがないですから、先に決めてしまうのが私の常套手段。スケジュール帳を睨んで「ここからここまで休む」と決めたら、先に飛行機のチケットを取ってしまいます。カレンダーと関係なく仕事をする人間は、こうまでして休みを確保しないとまとまった日数の旅行はできません。ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカ、北欧……行ってみたい国や場所はたくさんありました。

あるとき、旧知の友人とフランスのシャンパーニュ地方を旅しました。そのとき「イタリアのウンブリアに、おいしい野草のサラダを食べさせると評判のレストランがあるから行ってごらん」と人から勧められて、フランスからイタリアへ鉄路の旅をしました。
目的のレストランがある中部ウンブリアの小さな城壁の街へは、レンタカーを走らせました。そして車から降りた瞬間に思ってしまったのです。「ここに住もう」って。
なぜだかわかりませんが、車から降りて、土地の空気を吸った瞬間に「ここに住む」と決めてしまったのです。車を停めた駐車場は、城壁の高い塀で囲われ、あたり一面が自生するケイパーで覆われていたことを今でも覚えています。フウチョウボク科のケイパーは、塩漬けや酢漬けにしたつぼみが料理によく使われ、私も好きな香草です。野草や香草がたくさん生えている場所は、私にはとても魅力的。でもだからといって、初めて訪れた土地に「住む」とまで決めるなんて……我ながらおかしな話です。
どこかに住む拠点を持とうかな、という気持ちはかねてからありました。東京以外のどこか、外国でも日本でもよかった。自分が住む場所はどこかしら、といつも心のどこかで探していた気がします。「住む」は「暮らす」こと。
ただ好きな場所、いるだけで気持ちがいい場所、そこに居場所を作りたい。こんな気持ちがあって、旅をしていたところもあるかもしれません。人間はその場所に立つだけで、直感で「自分の居場所」だとわかる。当時の私はなんの根拠もなく、こんなことを考えていました。居場所だけでなく仕事も、自分の直感を頼りに進んできました。もちろん間違えることも多々あるのですが。
「イタリアで家を買った」と告げた時、家族の反応は…

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