ロシアによるウクライナ侵攻が3年半を迎えるなか、停戦に向けた動きが出ている。拓殖大学客員教授の名越健郎さんは「停戦の鍵を握るドンバス地方には両国ともに譲れない条件があるが、ここにきてロシアが歩み寄りを見せている」という――。


2025年8月18日、米国ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室で、ドナルド・J・トランプ米大統領がウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。

写真提供=Pool/ABACA/共同通信イメージズ

2025年8月18日、米国ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室で、ドナルド・J・トランプ米大統領がウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。



ウクライナ政府関係者が「北方領土」を口にするワケ

ウクライナ戦争停戦の焦点は、東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の線引き問題と戦後ウクライナの安全保障の行方にかかってきた。


ロシアのプーチン大統領は8月15日にアラスカで行われた米露首脳会談で、停戦条件としてウクライナ軍のドンバス地方からの撤退と全域の割譲を求め、見返りに再攻撃しないことを書面で約束すると提案したが、ウクライナが支配するドネツク州の残る25%から一方的に撤収することは困難だ。


しかし、現在の前線で停戦すれば、ウクライナはロシアの実効支配を認める構えで、これは「北方領土方式」の決着となる。ロシアがそこまで譲歩しない可能性もあるが、領土線引きの駆け引きが今後激化しそうだ。


在京のウクライナ外交筋は、「ゼレンスキー大統領は北方領土方式なら受け入れるだろう。ロシアの支配地域を法的にロシア領と認めることはあり得ない」と語った。


北方4島(択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島)は旧ソ連・ロシアが戦後80年間実効支配するが、日本政府は「4島は法的に日本領」と主張し、外交交渉でロシアに返還を求めてきた。日露間では領土をめぐる武力衝突は一切なく、ウクライナ侵攻前までは正常な関係が維持された。


「ウクライナ憲法は領土の割譲を禁止しており、大統領が法的に領土を明け渡すことはできないが、実効支配の黙認なら憲法違反にならない」と同筋は指摘した。疲弊するウクライナにとっては停戦が最優先であり、現在の前線上で戦火を凍結したいようだ。


80年間ロシアの支配が続く北方領土問題では、ソ連邦崩壊直後の千載一遇の好機を日本外務省が逃すなど、日本側の外交失敗も目立った。現在のロシア占領地にはウクライナ人が多数居住しており、いずれ到来するプーチン後の時代に外交交渉で一定の領土奪還は可能と同筋はみている。


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