21日の米金融市場では翌日のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長講演を控えて慎重ムードが広がった。株価は下げ、米国債利回りは上昇。米製造業データを受けて、インフレ圧力が利下げ見通しを暗くする可能性が懸念された。
株式終値前営業日比変化率S&P500種株価指数6370.17-25.61-0.40%ダウ工業株30種平均44785.50-152.81-0.34%ナスダック総合指数21100.31-72.55-0.34%
8月の米製造業活動を示す指数は、需要の強まりを背景に約3年ぶりの高水準に上昇。クリーブランド連銀のハマック総裁は連邦公開市場委員会(FOMC)が翌日に開催されると仮定し、自分は利下げを支持しないだろうと述べた。S&P500種株価指数は5営業日続落し、今年最長の下落局面。ウォルマートは四半期決算が予想を下回り、株価は大きく下げた。
新規失業保険の申請件数が増加し、雇用減速の兆候が新たに示された。製造業の購買担当者指数(PMI)は予想より強く、トレーダーは利下げ見通しを後退させた。短期市場では9月利下げの確率を約65%と織り込んでいる。1週間前は90%を超えていた。
パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長
Photographer: Al Drago/Bloomberg
eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「FRBは難しい立場にある。利下げ圧力を受けているが、インフレは上昇し労働市場は減速している。どちらの指標もFRBの2大責務から反対の方向に動いている」と述べた。
カンザスシティー連銀がワイオミング州ジャクソンホールで主催する年次シンポジウムはこの日開幕。世界中から中銀総裁や高官、エコノミストが集まる。今年のテーマは労働市場の構造的変化。パウエル議長の講演は22日に予定されている。
この日は複数のFRB高官が発言。ハマック総裁と同様、タカ派的な語調と受け止められた。
カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は、インフレのリスクは労働市場におけるリスクよりやや高いとしつつ、金融政策は良好な位置にあるとの認識を示した。
総裁は21日に放送されたブルームバーグテレビジョンのインタビューで、「2大責務に関して最適な数値に近づくにつれ、政策金利をどの水準に設定すべきかについて細かい部分の判断を下すことが一段と難しくなる」と語った。
アトランタ連銀のボスティック総裁は、年内の利下げは1回となる可能性が高いとの見方をあらためて示した。これは6月時点での自身の予測と一致する。ただし、労働市場の動向は「気掛かりな要因となり得る」とし、注視する必要があると付け加えた。
出所:ブルームバーグ
ナベリアー&アソシエーツのルイス・ナベリアー氏は「パウエル議長講演の後、市場は慎重になるに違いない」と話す。「昨日公表された議事要旨には、関税によるインフレリスクに対する懸念の深まりが示されていた。利下げ見通しは後退を続けるだろう」と述べた。
株価は下げたが、ゴールドマン・サックス・グループのトレーディング部門によると、値動きの激しいモメンタム株が大きく下落した現在は、過去の傾向から見て「押し目買い」の好機となる可能性がある。
ロング・ショートのモメンタム戦略バスケットが5日間で10%余り下落した場合、翌週には80%の確率で上昇しており、リターンの中央値は翌週で4.5%、その後1カ月で11%超に達していたという。
個別企業のニュースとしては、小売り最大手ウォルマートが下落。四半期決算は増収だったものの、純利益が3年ぶりに予想を下回った。保険金請求や訴訟費用、事業再編コストの増加が利益を圧迫したという。
ボーイングは最大500機の航空機販売契約の最終合意に向けて中国と交渉中であることが分かった。2017年にトランプ米大統領が最後に訪中して以来、ボーイングの中国向け販売は停止していた。
アップルはインド南部のIT産業都市ベンガルールに新たな直営店を9月上旬にオープンする。成長が期待できるインド市場での存在感を一段と高める狙いだ。
動画:カンザスシティー連銀のシュミッド総裁
出所:ブルームバーグ
米国債
米国債相場は反落。ジャクソンホール会合に関心が向かう中で、トレーダーらは9月利下げへの賭けを一部巻き戻した。S&Pグローバルが発表した米製造業PMIは予想より強かった。クリーブランド連銀のハマック総裁の発言も影響した。
国債直近値前営業日比(bp)変化率米30年債利回り4.92%2.40.50%米10年債利回り4.33%3.50.82%米2年債利回り3.79%4.01.06% 米東部時間16時46分
10年債利回りは一時5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し4.35%を付けた。金融政策の変更に敏感な2年債利回りは、3.80%まで上昇した。
取引中盤にクリーブランド連銀のハマック総裁の発言を受けて、米国債の売りが加速した。ハマック総裁はインフレの高さを理由に「もし政策会合が明日開催されるとして、現時点の情報に基づけば、利下げの論拠は見当たらない」と述べた。
ロベコのマルチアセット戦略責任者、コリン・グレアム氏は「パウエル議長はタカ派的な口調で話ながらも利下げへの道案内をするかもしれない」とインタビューで話した。「市場は利下げの確率を誤って織り込んでいるようだ」と述べた。
米10年債利回り
出所:ブルームバーグ
この日発表された経済指標では、先週の米新規失業保険申請件数が増加し、6月以来の高水準となった。8月の米製造業活動を示す指数は、需要の強まりを背景に約3年ぶりの高水準に上昇した。30年物インフレ連動米国債(TIPS)入札では、最高落札利回りが2.65%だった。
シュローダーの債券ストラテジスト、ジェームズ・ビルソン氏は「米労働市場の動向はFRBだけでなく世界の市場が息を詰めて見ている」と指摘。シュローダーでは米経済がハードランディング(硬着陸)する確率は約20%に上昇したと考えているという。
「9月に50bpの大幅利下げが正当化されるとはみていないが、利下げのタイミングが従来より早くなる余地は出てきた」と述べた。
外為
ブルームバーグ・ドル指数は予想を上回る米製造業PMIを受けて上昇。パウエル議長の講演を翌日に控え、利下げに慎重な他のFRB高官発言も影響した。
為替直近値前営業日比変化率ブルームバーグ・ドル指数1210.924.180.35%ドル/円¥148.34¥1.010.69%ユーロ/ドル$1.1608-$0.0044-0.38% 米東部時間16時46分
ドルは対円で一時0.7%上昇し148円41銭を付けた。
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主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、一時約0.4%上昇し、8月5日以来の高値を付けた。S&Pグローバルの米製造業PMIは予想より強かった。
クリーブランド連銀のハマック総裁は今年のFOMCで議決権を持たないが、政策会合が翌日に開催されると仮定するなら、インフレ上昇を理由に利下げを支持しないと述べた。
オールスプリングの債券部門チーフ投資ストラテジスト、ジョージ・ボリー氏はジャクソンホール会合を前に「関税と財政支出、規制緩和のためにダイナミクスが変化することを考えれば、全体的な影響を予想するのは難しい」と話す。
FOMCは9月に利下げに踏み切り、第4四半期にもう一度追加利下げを実施すると、同氏とチームは予想しているという。
ブルームバーグ・ドル・スポット指数は
出所:ブルームバーグ
原油
ニューヨーク原油先物相場は荒い値動きとなった末、続伸して終了した。ホワイトハウスのナバロ上級顧問(貿易・製造業担当)が、ロシア産原油の購入を理由に米国はインドに追加関税を課す見込みだと述べた。
ナバロ氏は対インド関税率について、8月27日に2倍になる見通しだと述べた。
投資家はロシアとウクライナの停戦に向けた取り組みの進展状況にも注目している。米国は両国の会談実現を目指しているが、ロシア側はこれまでのところ態度を明確にしていない。和平合意が成立すれば、ロシアの原油輸出への制限が緩和される可能性がある。ただ、ロシアは一連の制裁にもかかわらず原油供給をおおむね維持している。
サクソバンクの商品戦略責任者オレ・ハンセン氏は「夏季で商いが薄い中、強気・弱気両方の材料をにらむ展開が続き、価格は狭いレンジで推移している」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)10月限は前日比1.3%高の1バレル=63.52ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント10月限は1.2%上げて67.67ドルで終えた。
金
金相場は小反落。市場の関心はジャクソンホール会合に移っている。米金利の道筋に関する手掛かりを求めて、22日のパウエルFRB議長講演に注目が集まっている。
短期金融市場では来月に少なくとも0.25ポイントの利下げが実施されるとの見方が優勢で、実際にそうなれば利息を生まない金には追い風となる可能性がある。
フィッチ・ソリューションズ傘下のBMIは「9月の米利下げに市場が備える中、金価格は今後数週間に高止まりするだろう」とリポートで指摘。「年内はオンス当たり3200-3600ドルで推移する見込みだ」と記した。
金スポット価格
出所:ブルームバーグ
スポット価格はニューヨーク時間午後2時33分現在、前日比9.66ドル(0.3%)安の1オンス=3338.77ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、6.90ドル(0.2%)安の3381.60ドルで終えた。
原題:Stock Slide Deepens Before Powell as Yields Rise: Markets Wrap(抜粋)
原題:Treasuries Slide as Traders Trim Rate-Cut Bets Ahead of Powell(抜粋)
原題:Treasuries Fall on Strong Data, Hawkish Comments by Fed Official(抜粋)
原題:Fedspeak, PMI Figures Push Dollar Higher on Day: Inside G-10(抜粋)
原題:Oil Rises as US Keeps Pressure on India for Russia Crude Deals(抜粋)
原題:Gold Eases With Focus on Jackson Hole Meeting for Fed Clues(抜粋)
(相場の数字を更新します)
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