東京電力福島第一原発事故後の除染で出た「除染土」を福島県外で最終処分する国の方針を巡り、福島市で8月18日、「県外最終処分に向けた環境省の取組についてのパネルディスカッション」が開かれた。
除染土は現在、福島県双葉、大熊両町の中間貯蔵施設に保管されており、その量は「東京ドーム11杯分」(約1400万立方メートル)に上る。
法律で定められた「2045年3月までの県外最終処分」に向け、国は最終処分量を減らそうと、放射性物質の濃度が「1キロあたり8000ベクレル以下」の「再生土」を全国で再生利用する方針を示しているが、理解醸成は進んでいない。
この日のパネルディスカッションでは、再生土の安全性や周知の方法について議論が交わされた。
避難生活中に重い決断をした地権者
パネルディスカッションには、長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授、大熊町でキウイ園を運営する「ReFruits」の原口拓也さん、福島県出身タレントのなすびさん、環境省復興再生利用・最終処分事業推進担当の中野哲哉参事官が登壇した。
まず、中野参事官が「当時は大熊、双葉両町全体で避難する中で、土地を復興のために提供するという重い決断をして頂いた」と、中間貯蔵施設が整備された経緯について説明。
「江戸時代から代々受け継いできた土地もあり、この福島の重荷を全国で負担しながら課題を解決していくという考え方こそが、県外最終処分という方針に基づいた地元との約束になっている」と語った。
続いて、高村教授が再生土の再生利用の安全性について話した。
「1キロあたり8000ベクレル」以下の土であれば、作業員などの追加被ばく線量が「年1ミリシーベルト」未満に抑えられるとし、「さらに覆土したり、護岸工事の場合はコンクリートで遮蔽したりすることで、放射線をできるだけ遮ることができる」と述べた。
また、胸のレントゲンでは1回約0.1ミリシーベルト、CT検査では1回で約5ミリシーベルトを超える被ばく線量となることも紹介した。
環境省復興再生利用・最終処分事業推進担当の中野哲哉参事官(左)と、長崎大学原爆後障害医療研究所の高村昇教授
「自分の物差しを持つこと」
参加者から事前に集めた質問では、除染土の県外最終処分や、再生土の再生利用に関する国の説明がわかりにくいといった声が出たことも示された。
これに対し、なすびさんは「情報の受け手の理解度」にもグラデーションがあると語り、「誰が発信するのかということも重要だ」と述べた。
県立福島高校の生徒たちが過去にまとめた「外部被曝線量は福島県内外でほとんど変わらなかった」という内容の研究論文を例に出し、「誰が発信してどういう納得感を得られるのかが大事」とも話した。
福島第一原発が立地する大熊町でキウイを栽培している原口さんは、「農作物を作っているため、安全かどうかを数値で示し、それがどういう数値なのか説明できるようにしている」と述べた。
キウイ畑に人を呼ぶと、「知らなかったけど調べてみようと思った」という声を聞くことから、「現場に来ると当事者性が生まれる。100人ほどの人が畑に来たが、キウイの魅力を通じて興味や関心を持ってくれる人を増やしたい」と意気込んだ。
高村教授も、「放射線は比較的簡単に測ることができ、数値で見ることができる。あとは数値を解釈し、説明することが大事」と語り、「一番大事なのは自分の『物差し』を持つこと。例えば胸のレントゲンは約0.1ミリシーベルト被ばくなんだということを頭に入れ、放射線量について考えてほしい」と話した。
「ReFruits」の原口拓也さん(左)と、福島県出身でタレントのなすびさん、
「環境省が責任をとる」
一方、会場のホワイトボードに張り出された参加者からの意見の中には、「放射性物質を拡散すべきではない」「全国にばら撒くという考えはおかしい」という声も見られた。
「危険だから除染をしたはずなのに、基準以下だから全国にばら撒くことはおかしい。災害など何かがあった時は誰が責任を取るのか」といった質問には、中野参事官が回答。
「万が一問題があれば環境省が責任をとる」とした上で、災害などで再生利用した再生土が露出した状態が1年間続いたとしても、追加被ばく線量は年1ミリシーベルトを下回ると説明した。
また、そのようなことが起こらないような場所を再生利用先として選定することが前提だと語った。
同省は今後、東京都内でも同様のパネルディスカッションを開く予定という。
ハフポスト日本版がこれまで環境省や有識者らに取材した結果によると、「1キログラムあたり8000ベクレル」以下の土であれば、作業員や周辺住民の追加被ばく線量は「年1ミリシーベルト」を下回る。
詳述すると、再生利用の現場は通常、鉄板が敷かれた状態で重機が用いられるため、現実には作業員が盛土の上に立つことはほとんどない。
一方、計算は「鉄板を敷いた盛土の中央に立ち、年1000時間作業している」という条件でされており、「作業員の追加被ばく線量は年0.93ミリシーベルト」という数字が導き出されている。
また、周辺住民の追加被ばく線量も「年0.16ミリシーベルト」と、1ミリシーベルトから程遠い数字となっているが、これも盛土法尻から居住場所まで「1メートル」という厳しい条件で計算されている。
これらはいずれも、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の「一般公衆の年間被ばくの線量限度」(1ミリシーベルト)を下回る。福島県内で行われている実証事業でも安全性は示されている。
そもそも日本人の平均被ばく線量は年4.7ミリシーベルトであり、うち2.1ミリシーベルトは自然放射線からの被ばくであると推定されている。
ICRPでは、大人も子どもも含めた集団で、がん死亡の確率が100ミリシーベルト当たり0.5%増加するとして、防護を考えることとしている。
再生利用などについては、IAEA(国際原子力機関)も、「安全基準に合致している」とする報告書を公表している。
このほか、「原子炉等規制法に基づくクリアランス基準」(1キロあたり100ベクレル以下)と比べ、再生利用の基準(1キロあたり8000ベクレル)という数字はあまりにも大きいと心配する声もあるが、クリアランス基準は放射線防護の規制の対象外とし、全く制約のない自由な流通を認めているものだ。
例えば、原子力発電所で使われていたコンクリートを建築資材、金属をベンチなどに再生利用することが想定されるが、自由な流通を認めるというのは「何がどこに使われようが一切制限がない」ということになる。
一方、再生土の再生利用先は、管理主体が明確になっている公共事業などに限定される。つまり、適切な管理の下で使用するという点で、クリアランス基準とは前提が異なる。
そもそも土壌は公共工事などにも利用される貴重な資源であるため、安全性を確認できた場合は、除染土の最終処分量を減らすという観点だけでなく、貴重な資源の有効利用という点からも再生利用は必要だと指摘する専門家もいる。
ハフポスト日本版はこれまで、再生利用される土も含めて一括して「除染土」と表記してきましたが、一連の問題に対する理解の妨げになっている可能性があることから、公共事業などに再生利用される土(1キロあたり8000ベクレル以下)については「再生土」と表記しています。
WACOCA: People, Life, Style.