注:真鍮メッキ鋼鉄製10ルーブル硬貨(1997年シリーズ。2016年改定。直径22ミリ、幅2.2ミリ、重さ5.63グラム)。2016年に表面(左面)の国章がロシア帝国時代の「3つの王冠をかぶった双頭の鷲」に変更された。プーチン政権による「再帝国化」を表現している。国章の中央にはモスクワ大公国の守護聖人・聖ゲオルギオスが刻まれ、双頭の鷲は東ローマ帝国(ビザンツ帝国)、3つの王冠はチンギス・カンの長男ジョチの子孫をハン(皇帝)とするカザン、アストラハン、シビル(シベリア)の3つのハン国を表す。ロシアは東ローマ帝国とモンゴル帝国の継承国家だと主張している。出所:ロシア連邦中央銀行ホームページ

(安木 新一郎:函館大学教授)

 歴史上、国が弱体化するにつれて、通貨の素材が劣化することは珍しくない。電子マネーやクレジットカードなどの使用範囲が拡大し、紙幣や硬貨といった現金の役割が小さくなった現代でも、同じことが繰り返されている。

 ロシアは、2008年8月のリーマン・ショック以降、硬貨を銅製から鋼鉄製に切り替えた。2022年2月のウクライナ侵攻後は貨幣を鉄で作れなくなっており、紙幣にしようとしたり、その紙幣ですら印刷できなくなったりと表向きは景気が良さそうだが、体制のひずみは徐々に大きくなっている。

 インフレ率が高いロシアでは、人々は得たルーブルをすぐに米ドルやユーロの現金に替え、必要な時だけルーブルに戻して使うという習慣を持っている。ロシア極東では米ドルだけでなく、日本円や日本製の中古車で「貯金」していた。中古車は、いつでも現金化できる「準通貨」である。

 現在でも、主にトルコ経由で100ドル紙幣が流入している。ロシア人のルーブルに対する信認は低い。とはいえ、日常の買い物や、年金・恩給・特典などの受け取りにはルーブル現金を使っているが、2022年のウクライナ侵攻以降、ロシア連邦中央銀行(以下、ロシア銀行)はルーブル現金の供給を円滑にできていない。

 1999年に突如として登場したプーチン大統領の下、ロシア経済は急回復していったが、高インフレ率が続くことに変わりはなかった。こうした中、2008年9月にリーマン・ショックが起き、2009年ロシアは過去10年で最悪の経済危機に見舞われた。

 2009年5月にロシア銀行は、これまで銅貨として発行してきた1ルーブル、2ルーブルおよび5ルーブル額面の硬貨を鉄貨に切り替えると発表した。

 その理由は、「私しょう(「金」へんに「肖))」の防止だ。

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