北京で開かれた第3回中国国際サプライチェーン促進博覧会でスピーチするNVIDIAのジェンスン・フアンCEO(7月16日、写真:AP/アフロ)

 米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)製AIチップの対中輸出を巡る米中間の「融和」ムードは、わずか数週間で急転した。

 7月中旬に輸出再開で合意した直後の7月末、今度は中国のサイバーセキュリティー規制当局が同社製AIチップの安全保障上の懸念を表明。米中技術覇権の争いが、新たな局面に入ったことを浮き彫りにした。

 この中国側の動きは、一企業の製品に異議を唱えることにとどまらない。

 米政府がAIチップに「追跡機能」などを搭載しようとする動きへの牽制であると同時に、米中対立の争点が、単なる輸出の可否から製品の信頼性そのものへと移行したことを示唆している。

中国当局、NVIDIAに異例の説明要求

 7月31日、中国のインターネット規制当局である国家インターネット情報弁公室(Cyberspace Administration of China、CAC)は、エヌビディアの関係者を呼び出したと明らかにした。

 目的は、中国で販売されるエヌビディア製「H20」チップに潜むとされるセキュリティーリスクの説明を求めること。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、中国当局はユーザーデータやプライバシーが侵害される可能性を懸念しており、エヌビディアに対し、潜在的な脆弱性やバックドア(裏口)に関する資料の提出を要求した。

 これに対しエヌビディアは即座に声明を発表。

「サイバーセキュリティーは我々にとって極めて重要だ。当社のチップには、第三者が遠隔でアクセスしたり制御したりできるようなバックドアは存在しない」と全面的に否定し、火消しに追われた。

背景にある米国側の「追跡」「遠隔シャットダウン」案

 中国側が突如としてセキュリティー懸念を表明した背景には、米国で浮上している新たな輸出管理手法への警戒感がある。

 米議会やホワイトハウスでは、米国製の高性能AIチップが輸出規制国に不正に迂回輸出されるのを防ぐため、チップ自体に位置情報の追跡や検証機能を搭載することを義務づける法案が議論されている。

 米CNBCなどによれば、一部の米議員や専門家は、こうした技術は既に利用可能で、エヌビディア製品にもその多くが組み込まれていると指摘する。

 中国当局は、こうした機能を「追跡・測位」「遠隔シャットダウン」として問題視。自国のネットワークやデータの安全を脅かすものだと反発している。

 米国の規制緩和の裏で進む監視強化の動きを牽制した形だ。

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