線状降水帯が発生し、千葉県や茨城県で浸水被害が相次いだ記録的な大雨から9月8日で1年。
川の氾濫で宿泊施設などが被害を受けた千葉県にある「養老渓谷」の温泉街では、休業を続けてきた旅館がおよそ1年ぶりに営業を再開するなど復旧が進んでいます。
(千葉放送局記者・車谷郁実)
大雨から1年 被災旅館が再開
市原市と大多喜町にまたがる「養老渓谷」では、去年9月の大雨による養老川の氾濫などで、宿泊施設7軒が浸水などの被害を受けました。これまでにほとんどが営業を再開し、復旧工事を進めていた残る1軒も9月7日におよそ1年ぶりに客を迎え入れました。
およそ1年ぶりに再開した旅館
営業を再開した旅館「喜代元」を営む 秋葉保雄さん
お客様をお迎えできてほっとしています。
再開までに時間がかかりすぎていると落ち込んだ時もありましたが、今は1年でよくここまでできたという気持ちも大きいです。
旅館では夕食会場に食器を並べるなどの準備が進められ、午後3時ごろに1人目の宿泊客が到着すると従業員が玄関に並んで迎え入れていました。
再開後、最初のお客さんは県内から訪れた家族でした。去年8月にもこの旅館に宿泊していたといいます。
宿泊客
皆さん優しく、雰囲気も良かったので、また来たいと話していました。きのう、たまたま再開を知って、すぐに予約しました。
初めて養老渓谷を訪れたという宿泊客も。
宿泊客
予約をするときに、とても大きな被害が出ていたと知りました。温泉が楽しみです。
大きな被害 廃業も脳裏によぎる
2023年9月の記録的大雨での被害
この旅館は去年9月、目の前にある養老川の氾濫で1階が1.7メートルほど土砂混じりの水につかりました。1階にあった調理室や食事スペースが被害を受けたほか、温泉をくみ上げる配管がつまり、美肌効果があるという名物の「黒湯」も供給できなくなるなど深刻な被害を受け、一時、廃業も頭をよぎったといいます。
しかし、営業の再開を待つ人たちの声や川の改修工事が決まったことなどから、再建に向けて取り組んできました。
2023年9月の記録的大雨での被害
災害対策に重点 “安心して利用してほしい”
修繕工事にあたって、意識したのは災害に対する安全性です。
浸水被害を少しでも防ぐため、1階部分を20センチかさ上げしました。
地震の揺れにも強くするために1階に鉄骨を加え、壁を増やすなどの対策を行いました。
さらには、県も養老川の護岸のかさ上げ工事を予定しています。
川や観音橋を望む旅館からの景観が、工事で変わってしまうかもしれませんが、安心して利用してもらうことが最も大切だと考えています。
秋葉さん
景観が変わってしまうことはさみしいですが、安全を最優先にしたいです
旅館の目の前に広がる景色
遊歩道の復旧作業続く
11月には紅葉シーズンを迎える養老渓谷ですが、周辺の遊歩道は土砂崩れなどの影響でまだ一部が通行止めで復旧作業が続くところもあります。
養老渓谷観光協会の会長も務める秋葉さん。今後どのように観光客を呼び戻すのかが課題だといいます。
秋葉さん
「車から紅葉をみたい」「ゆっくり散歩を楽しみたい」など、観光客それぞれのニーズにあった観光の提案をしていきたいと思っています。
都心から2時間ほどで田舎の風景を楽しむことができます。川の音を聞いたり、ゆっくり温泉につかったりして、リフレッシュしてもらいたいです。
編集後記
「景観よりも安全をとりたい」。秋葉さんのこの言葉が一番印象に残りました。
去年の記録的大雨はわたしが配属される前の災害でした。取材で養老渓谷に訪れてみても、山の木々や真っ赤な観音橋の下を穏やかに流れる川の風景からは、1年前の災害を感じることはできませんでした。しかし、秋葉さんや地元の人から当時の状況を聞く中で、旅館のかなり下を流れるこの川が、実際にあふれて大きな被害をもたらしたのだと実感しました。
被害を受け、県は川の護岸工事も予定しています。
護岸が高くなれば、旅館の前から橋や山々が見えなくなるかもしれませんが、景観を変えてでも次の災害は防ぎたいと話す秋葉さんの言葉に、これからも自然に近い場所でなりわいを続けていくという強い決意を感じました。
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