超新星残骸「W49B」の想像図。XRISM(X線)、Palmer(赤外線)、VLA(電波)での観測結果を参考にして作成。 Credit: JAXA

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 今、宇宙を解剖しつつある世界最高性能のX線天文衛星があります。2023年にH-IIAロケットで種子島宇宙センターから打ち上げられたX線撮像分光衛星「XRISM(クリズム)」です。

 XRISM衛星の搭載するX線分光装置「Resolve(リゾルブ)」は、その桁違いのエネルギー分解能によって、高温ガスの流速を測り、天体の立体構造を求め、暗黒物質の分布を明らかにしつつあります。その成果が、今年になっていよいよ論文や研究会や記者発表に浮上してきました。

 2025年7月29日に発表された超新星残骸「W49B(ダブリューよんじゅうきゅうビー)」について、何がXRISMで分かるのか、解説しましょう。(長いです。)

XRISMのResolve

X線分光撮像衛星(XRISM)宇宙空間での想像図。 Credit: JAXA

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 XRISM衛星搭載のResolveは、「X線マイクロカロリメータ」と呼ばれる装置で、X線光子を捉えて、そのエネルギーを超精密に測定します。

「X線撮像分光衛星XRISM」の名称にもある「分光」とは、光を波長(あるいはエネルギー)で分けることです。例えば、可視光をプリズムに通すと、赤や黄、青などさまざまな色(つまり波長)に分かれますが、あれはプリズムを用いた分光です。可視光や赤外線の「普通」の分光では、ある波長の光が天体からどれほど届いたかは、概算でしか分かりません。

 しかしResolveは、やってきたX線の光子を1個ずつ捉えて分光できます。光子1個のエネルギー(波長)を、しかも誤差1000分の1程度という超精度で測定できるのです。X線は、1個1個の光子のエネルギーが高いので、こういうことも可能なのです。

 こうしてエネルギーを超精密に測定できるようになると、天体から得られる情報量が飛躍的に増えちゃいます。例えば、そのX線を放った「物」の動く速度を測定できるのです。

 極端な例を挙げれば、Resolveは天体から飛来した光子を1個捉えるだけで、それが24階電離した(電子が24個はぎ取られた)鉄イオンから発せられた光子で、その鉄原子はこちらに向かって秒速500kmの速度で動いている、なんてことが分かるのです。(ただし鉄イオンはエネルギーの微妙に異なる数種類のX線光子を放射するので、数種類の解釈のうちどれが正しいのかは、いくつか光子を集めてから判断した方が安全です。)

 これがCCDなどの半導体検出器ならば、誤差が1桁大きいので、原子の電離状態を決めるには大量の光子を集める必要があります。そして残念ながら、速度は(光速の数パーセントというような極端な高速度でない限り)測定できませんでした。

 けれども、いまやX線マイクロカロリメータが打ち上がって地球を周回し、エネルギー測定の精度が10倍高まったことによって、次元の異なる情報が天体から引き出せる時代がきたのです。

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