映画はお金のかかるメディアです。だからこそ、ジェンダー、セクシュアリティ、カースト、宗教など多様な背景を持つ人たちが、制作に関われる環境を整えることが重要です。インドでは配給のハードルも高く、大作映画がスクリーンを独占し、小さな作品はなかなか上映の機会を得られません。それでも今回、『私たちが光と想うすべて』が第77回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したことで、多くの人に関心を持ってもらうことができました。インドでも5週間の公開と配信によって、多くの人に届いたことは大きな希望でした。どんな作品なのかと関心を寄せてもらえたことが何よりもうれしかった。私たちは、できる限り多様なかたちでこの作品を届けようと努力しました。今後も、受け取ってくれる人がいる限り、私は映画をつくり続けたいと思っています。
「カースト制度」は、インドでは日常会話でも普通に話題にされます。ただ、話し方そのものが問題を孕んでいます。なぜなら、多くの人がカーストに強い誇りを持っているからです。でもそれは自分の努力とは無関係な、どの家に生まれたのかというだけの根拠のない誇りです。私は、なぜそこに誇りを感じられるのか理解できません。カースト制度は人種の問題に近いかもしれません。それほど根深く、社会に染みついた構造なのです。たとえば、今作の中にも結婚相手のプロフィール写真を見せ合うシーンがありますが、これは実際に結婚仲介サイトや新聞のお見合い欄などでよく見られる光景です。そこには当然のようにカーストが記載されており、「同じカーストだから連絡してみよう」と家族が判断します。一方で、私はインド映画テレビ研究所(FTII)という映画制作者養成機関で学びましたが、そこを含め、インドのすべての公立大学にはカーストに基づくアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)があります。これは、長年の制度的差別を少しでも是正するための仕組みであり、こうした制度が存在していること自体は素晴らしいことだと思っています。かつて教育の機会すら奪われていた人々に、今こそ権利が与えられるべきなのです。
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