6号トンネルはシンメトリーの翼壁(ウイング)が美しい。全国でわずかしか現存しない明治期の貴重な意匠だ(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
各地でさまざまな形で公開されている鉄道廃線トンネル。今回は、トンネル特有の環境を活用して、ビアホールを設けたりコンサートを開催したりするなど、ユニークなアイデアで魅力を伝えている愛知県春日井市の愛岐トンネル群について紹介する。
(花田 欣也:トンネルツーリズムプランナー、総務省地域力創造アドバイザー)
紅葉の人気スポットとして有名な愛岐トンネル群
明治期の鉄道の煉瓦トンネルを保存、活用し、これまでもユニークな企画を次々に展開し、時期限定の公開ながらも、中京圏を主に人気を博しているのが愛知県の春日井市の愛岐トンネル群だ。
愛岐トンネル群は、1900年(明治33年)に中央本線の定光寺~多治見間の庄内川沿いに設けられた現JR中央本線の旧線トンネルで、建設当時は14本のトンネルがあったが、1966年(昭和41年)に列車の高速化を図るため、新線のトンネルに付け替えられ廃線となった。
うち、3号~6号トンネルの4本のトンネルが残り、NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会(以下、NPO)によって当時の雰囲気のまま整備・保存され、例年春・秋に時期限定で公開されている。昨年秋の特別公開では9日間の時期限定ながら、過去最高の約3万4000人の来場があり、中京エリアの紅葉の人気スポットとして知名度は定着している。
例年11月下旬に秋の特別公開が行われ、天然記念物に指定された大モミジなど200本余りが美しく色づき、煉瓦に映えて見事(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
ギャラリーページへ
トンネルの通気性を生かして「森のビアホール」
この愛岐トンネル群で、夏季限定で開催されているユニークなイベントが人気だ(今年は8月16日を除く8月中の土日に開催、事前予約制)。モミジの青々とした樹々で覆われた明治期の煉瓦のトンネルを活用した“ビアホール”、その名も「森のビアホール」だ(主催は春日井市観光コンベンション協会)。
トンネルの温度、湿度は年間を通じ外気に比べて一定で、夏場は通風性が高いため、外よりも涼しく感じる。その利点を生かし、4本のトンネルのうち一番手前の3号トンネルの内外に椅子とテーブルを並べ、生ビールやオードブルなどのおつまみを味わえるイベントを地域の関係者と連携して開催している。
JR駅からのアクセスの良さも相まって、夏季の週末のみの開催ながら年々来場者数は増加しており、今年は新たに煉瓦で手作りしたピザ窯も登場し、ピザ生地を利用者に販売し各々窯で焼く体験も楽しめる。
約130年前に建造された煉瓦のトンネル空間で生ビールを楽しむ“森のビアホール”(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
ギャラリーページへ
「森のビアホール」の“ホール”は英語のhole(トンネルの穴)をかけた造語、と語るのは、このイベントを始め数多くの企画を編み出してきたNPOの村上真善(まさよし)理事長。自身が大のビール党であることから思いついたという。
普段は委員会のメンバーとともに草の伐採作業を行い、愛岐トンネル群の土木産業遺産的な価値や特性を知った上で、貴重な煉瓦トンネルをもっと活用できないかとさまざまな企画を考案し、次々に実施につなげてきた。
また、2021年(令和3年)11月に兵庫県神戸市で開催された「トンネルサミットinひょうご」でパネリストも務めるなど、全国のトンネルの観光活用における草分け的な存在で、他地域への視察も積極的に行っている。
トンネル前の青紅葉の下でもビールが楽しめる。キャパシティを考慮し、予約サイトによる事前申込制(写真:NPO法人愛岐トンネル群保存再生委員会)
ギャラリーページへ
WACOCA: People, Life, Style.