カナダ東部の先住民族、トビーク・ファースト・ネイション出身のジェレミー・ダッチャー

 カナダ東部の先住民族、トビーク・ファースト・ネイション出身のジェレミー・ダッチャーは、100年以上前に録音された先祖の歌声に独自のアレンジを加えて現代音楽として蘇らせ、カナダの最高音楽賞であるポラリス音楽賞を二度受賞(史上初)した。

 絶滅の危機に瀕する先住民族の言葉を守り、次の世代に渡すために音楽活動を展開する彼は、多様性を尊重することで世界全体がより豊かに、より強くなれると語る。8月9日の世界先住民族の日を前に、東京と大阪・神戸での公演のため来日したダッチャーに話を聞いた。(聞き手:草生 亜紀子、フリーライター)

──2018年のデビューアルバム『Wolastoqiyik Lintuwakonawa』は、ヨーロッパの研究者が100年以上前に録音していた音源から先祖の歌声を掘り起こし、新たな解釈で現代音楽として再構築し、高い評価を受けました。このアルバムができるまでの物語を聞かせてください。

ダッチャー:私は先住民族である母とそうではない父の間に生まれた4人兄弟の末っ子で、みんなピアノやギターを弾いたり伝統的な歌を歌ったりする音楽一家に育ちました。

 そのうち、先住民族としてきちんと伝統を知っておいた方が良いという母の考えもあって、エルダーと呼ばれる長老の元で民族の言葉であるウォラストケイ語や歌を習うことになりました。この時からずっと導いてくれているのがマギー・ポールという女性で、非常に大きな影響を受けました。

 一方で、高校時代から演劇やミュージカルに関わるようになってオペラに興味を持ち、大学ではクラシック音楽と人類学を学び、テノール歌手としての訓練を受けました。先住民族の伝統的音楽とクラシック音楽というふたつの美しいものに触れて育ったのです。

 ただ、ふたつは表層では違って見えても、息遣いや構成などに似たところもあって、「どちらかを選ばなくても良いのではないか?」と思い始めました。真ん中を行く道があるのではないか、と。

 ちょうど家族の元を離れて暮らしていて、民族のコミュニティや言葉、歌が恋しくなっていた時でもありました。そんな時、マギー・ポールに「民族の歌をもっと知りたいなら、歴史博物館に行きなさい」と教えられて、100年以上前に蝋管に刻まれた音源に出会ったのです。

 それを聴いたとき、自分がやるべきことがはっきりとわかりました。絶滅の危機に瀕する言葉と歌を保存して伝えていこうと。博物館に寝かされていてはいけないのです。

──少し話を戻します。民族の言葉や伝統的な歌を習ったのは、お母様からではないのですね?

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