企業幹部を震え上がらせた李在明大統領(7月24日撮影、写真:AP/アフロ)
「あの発言には仰天して震え上がった」
複数の韓国の大企業役員が同じ反応だったのだから、さぞ強烈なインパクトだったはずだ。
韓国の李在明(イ・ジェミョン=1964年生)大統領が産業災害死亡事故を起こした企業を「殺人では…」と名指ししたのだ。
2025年8月4日、韓国の主要紙の1面にそろって字ばかりの広告が載った。
商品広告ではない。
ポスコの字ばかりの広告
タイトルは「ポスコグループが安全を革新し、安全な大韓民国を作るために先頭に立ちます」だった。
「最近ポスコグループで相次いで発生した事故で貴重な生命が失われた故人と、そのご家族に深い哀悼の意を表し、深くお詫びいたします」で始まる「役員従業員名」の12行の文章だった。
具体的な安全対策として、会長直属の「グループ安全特別診断TF(タスクフォース)」を新設することや、下請け構造の見直しなども掲げた。
広告を見た韓国紙デスクはこう話した。
「死亡事故が起きたのだから弁解の余地はない」「これだけ素早く手を打ったのは、大統領の強烈な叱責の効果だ」「それにしてもあの言い方にはびっくりした」
いったい何があったのか。
未必の故意殺人…生中継の国務会議で
2025年7月29日の国務会議(閣議に相当)で、企業の経営者を凍りつかせる大統領の発言があったのだ。
この日の90分間の国務会議は、大統領の指示で、ユーチューブなどでの生中継になった。その場で、大統領が産業災害について切り出した。
「ポスコE&Cという会社で今年に入って産業災害死亡事故が相次いでいる」
「予想できた事故を防がずに事故が発生したということは、死を容認したということだ。厳しく言えば法律上用語の『未必的故意による殺人』ではないか」
法律家の李在明大統領らしい言い回しだ。
未必の故意とは、法律用語で、犯罪結果が生じる可能性を認識していながらこれを許容していたとの意味で、刑法上は処罰対象である「故意」とみなす。
大統領が、特定の企業を名指しして「殺人」に言及するのは、異例中の異例だ。何が起きていたのか。
ポスコE&Cはポスコホールディングスが50%超を出資する建設、エンジニアリング会社だ。
もともとは鉄鋼大手のポスコの製鉄所の建設やメンテナンス事業が発祥で、いまは韓国の土木建設エンジニアリング大手だ。
2024年の売上高は9兆4000億ウォン(1円=9ウォン)だった。
WACOCA: People, Life, Style.