「世界からの信頼を自ら破壊 寛容性失えば覇権国から転落」
関税、反移民、エリート攻撃──。世界中を混乱させている「トランプ現象」をどうみればいいのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏に聞いた。(聞き手=中西拓司・編集部)
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トランプ米大統領は高い関税で輸入を防ぎ、国内製造業を復活させようとしている。これは完全な間違いだ。米国は多様性への寛容性や許容性で繁栄を築いてきたが、それを自ら破壊しようとしている。
米国の貿易赤字はモノの取引で2024年に1.2兆ドル(約180兆円)となり過去最大を更新した(図)。ただ、米国にとってこれは必ずしも「悪」ではない。国内総支出(GDE、国内で支出された財・サービスの総額)=国内総生産(GDP)+経常赤字で、GDEは国民生活の豊かさを示している。単純にいえば、輸入によって経常赤字が増えても、それは支出に充てられるので自分で働かなくても生活は成り立つ──ということだ。
もちろん、赤字をいつまでも続けるわけにはいかない。しかし、米国が赤字を続けられてきた理由は、米国への投資が継続してきたからだ。「米国なら投資してもデフォルト(債務不履行)しない」という安心感による。それを一面的に「赤字は悪だ」という政権の姿勢は合理性がなく、最も重要な「信頼」という根幹を見失っている。
米国のドルは基軸通貨で、各国政府や中央銀行が国際的な支払い手段としてドルを保有し、その結果、米国債の保有を増やし続けている。ドルが基軸通貨として認められてきたのは米国への信頼があるからだ。この結果、世界からグローバルな金が米国債に集まり、経常収支の赤字を賄ってきた。
この「信頼」の土台には、米国政治の安定性や透明性がある。独裁者が権力を悪用して政策をねじ曲げることがないように三権分立が機能し、中央銀行の独立性が担保されることで、公平公正でバランスのあ…
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週刊エコノミスト
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