スイスからの全輸入品に39%という懲罰的な関税を課すというトランプ米大統領の決定を受け、スイスの政財界エリートらは打ちのめされている。スイス政府は関税を回避できたと自信を持っていただけに、その衝撃は大きい。

  スイスのケラーズッター大統領兼財務相は1日、演説で「スイスは嵐には慣れている。この困難をともに乗り越え、働き続け、解決策を見出さなければならない」と聴衆に呼びかけた。同氏は前日の最後の電話で、トランプ氏の考えを変えられなかった。

  1日はスイスの建国記念日で、例年ブランチやバーベキュー、そして山間の谷を照らす花火で祝う。だが、多くのスイス国民にとって、関税のニュースは祝日の幕開けとしては最悪で、「パーティーにトランプ氏が乱入した」かのような感覚を残した。

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  スイスの対米輸出額は2024年時点で630億ドル超で、米国にとっては13番目に大きな貿易赤字を記録したことが、トランプ氏の怒りを買った可能性がある。一方でスイス側は、自国が米国で7番目に大きな投資国だと主張している。グリア米通商代表部(USTR)代表は、ブルームバーグ・テレビジョンで「貿易赤字を減らす最善の方法について、全く合意に至ることができなかった。彼らは大量の医薬品を我が国に輸出している。私たちは自国で医薬品を製造したい」と語った。

  グリア氏は「関税率は主に、米国との貿易赤字の大きさと、その国が貿易赤字にどう対応する意思があるかによって決まる」とも述べ、スイスだけでなく、解決に至らなかった多くの国が高関税の対象となったとしている。

Karin Keller-Sutter

スイスのケラーズッター大統領兼財務相

Photographer: Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images

失策

  スイス当局は7月16日の時点では、米国と貿易枠組み協定の草案を承認し、あとはホワイトハウスの最終承認を待つだけだと述べていた。しかし今となっては、米国政府の空気を大きく読み違えていたことが明らかで、今後、内省と政治的な非難を招く可能性が高い。

  ジュネーブ大学政治学・国際関係学部およびグローバル・スタディーズ研究所のルネ・シュウォック名誉教授は「これは政府の失策だ。ケラーズッター氏は交渉に直接関与していた。同氏はトランプ氏と直接電話でやり取りし、米大統領との関係の良さを多少なりとも誇示していた」と語った。

  国内では、クレディ・スイスの救済買収後の対応に追われ、UBSグループに対するより厳格な自己資本要件の導入を主導しているケラーズッター氏にとって、今回の関税は新たな頭痛の種だ。

  これまでのところ、スイス政府は関税率に対して「強い遺憾」の意を示すにとどまり、引き続き交渉による解決を目指す姿勢を強調している。

  スイス企業は米国へのアプローチを広範に行っており、製薬大手ロシュ・ホールディングスとノバルティスの2社だけでも、ここ数か月で米国に700億ドル(約10兆5200億円)超の研究・製造・流通投資を約束していた。両社とも、新たな関税についてのコメント要請に今のところ応じていない。

  何が問題だったのかをスイス政府が探ろうとする一方で、39%という関税率の恣意性は、独立系の専門家も困惑を示している。ザンクト・ガレン大学で租税・貿易政策を専門とするステファン・レッゲ教授は「誰にもこの39%がどこから出てきたのか分からない。なぜ米大統領は、40%のようなキリの良い数字にしなかったのか」と語った。

  一部の政治家にとっては、スイスが自国の運命を自由に決められる力には限りがあるという現実を改めて突きつけられる出来事にもなった。今後仮に交渉で関税率が引き下げられたとしても、まずは自国の属する欧州大陸との関係強化を優先すべきだとの認識につながっている。

  ヤンス司法相は1日、ドイツ国境に近いシャフハウゼンでの建国記念日の演説で「スイスの居場所は欧州にある。今こそ、これを強く実感している」と強調した。

原題:Trump’s Shock 39% Tariff Crashes Swiss National Day Party (1) (抜粋)

 

 

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