2週間後に迫る25-26年シーズンのスペインリーグ開幕に向け、レアル・マドリードを除く19クラブがプレシーズンで準備を進めている。例年同様、多くのクラブに財政的余裕がなく、1000万ユーロ(約17億円)を超える補強はここまで13件のみ。そのうち10件はマドリードの2チーム、残り3件はバルセロナ、ビルバオ、ビリャレアルである。
実際に各クラブの状況はどうなっているのだろうか? スペインの3強や日本人所属クラブを中心に探っていきたい。
■アトレチコは変革のシーズン
特に大きな動きを見せているのは、5季ぶりのリーグ優勝への意欲を感じさせるアトレチコ・マドリード。チームを支えてきたアスピリクエタ、ヴィツェル、ヘイニウド、リケルメ、コレア、デ・パウル、サムエウ・リーノの7人が去り、レマルも期限付き移籍でチームを離れ変革のシーズンを迎える中、約1億5000万ユーロ(約255億円)の大型補強を敢行した。
ここまで、イタリア人DFルッジェーリ(アタランタ)、スペイン人DFプビル(アルメリア)、スロバキア代表DFハンツコ(フェイエノールト)、スペイン代表MFバエナ(ビリャレアル)、アメリカ代表MFジョニー・カルドーゾ(ベティス)、アルゼンチン代表FWティアゴ・アルマダ(ボタフォゴ)の6人を獲得。これにより、昨季大きな問題を抱えていた左サイドやセンターバックに加え、選手層が薄くなった他のポジションも強化した。
だがエンリケ・セレッソ会長はこれだけでは飽き足らないようだ。「メンバーは固まっているが、もし何かあればそのチャンスを生かす」とさらなる高みを目指しており、フランス人MFエンツォ・ミロー(シュツットガルト)やイタリア代表FWジャコモ・ラスパドーリ(ナポリ)に興味を示している。
クラブワールドカップ参加によりプレシーズン開始が遅れ、まだ1度もテストマッチを実施していないため未知数な状況にあるが、シメオネ監督が新戦力をうまくチームにフィットできれば、今季はかなり面白い存在となるだろう。
■レアルはマンCからロドリ獲得も
昨季メジャータイトル無冠に終わったレアル・マドリードは今夏ここまで、スペインで最も補強費が多いチームとなっている。
アンチェロッティ監督、モドリッチ、ルーカス・バスケスの功労者が去り、新時代を迎える中、スペイン代表DFハイセン(ボーンマス)をスペインリーグ移籍金最高額となる約6000万ユーロ(約102億円)で獲得したことを筆頭に、イングランド代表DFアレクサンダー=アーノルド(リバプール)、U-21スペイン代表DFアルバロ・カレーラス、アルゼンチン代表MFマスタントゥオーノ(リバープレート)に約1億7000万ユーロ(約289億円)を費やした。
さらに、昨夏引退したクロースの代役を務められる選手を狙っているという報道が出ており、その候補としてスペイン代表MFロドリ(マンチェスター・シティー)が挙がっている。その一方、シャビ・アロンソ新監督指揮下で出番が減る可能性があるロドリゴ、長期離脱から全盛期のパフォーマンスを取り戻せていないアラバなどに退団の可能性が取り沙汰されている。
クラブワールドカップ準決勝進出の影響で選手たちはまだ休暇中だ。プレシーズン開始が今月4日と、他のチームより1カ月近く遅いことが懸念材料となっている。
■久保はオサスナ戦1得点1アシスト
レアル・ソシエダードは補強面でマドリードの2クラブと逆の状態にある。今夏の移籍市場開始から1カ月が経過するも、スペインリーグで唯一、まだ一人も選手を獲得していないチームとなっている。
主力のスビメンディとアゲルドを失った中でリーグ戦11位という昨季の不本意な成績を挽回する必要があるにもかかわらず、いまだに新戦力がいないという現実にサポーターは不安を募らせている。
特にセンターバック、中盤、前線の補強が必須の中、ブラジル人DFイゴール・フリオ(ブライトン)、アルゼンチン代表DFマルコス・セネシ(ボーンマス)、クロアチア代表DFチャレタ=ツァル(リヨン)、アルゼンチン代表MFエセキエル・フェルナンデス(アル・カーディシーヤ)、ポルトガル代表FWゴンサロ・ゲデス(ウルバーハンプトン)などが候補に挙がるも、現時点でひとつも具体化できていない。
新監督のセルヒオ・フランシスコは試行錯誤を重ね、システムやスタメンを変更しながらここまで日本ツアーを含むプレシーズンマッチ4試合を戦い、2勝1分け1敗と徐々に調子を上げている。
そのうち3試合(先発2試合)に出場した久保は直近のオサスナ戦で1得点1アシストを記録し、地元メディアに唯一最高点をつけられるほどの素晴らしいパフォーマンスを披露。チームの柱としてこれまで以上の活躍が期待される。
去就に関しては先日、ジョキン・アペリバイ会長は「何のオファーもない」と言い切ったが、エバートンに狙われているという報道が出ている。しかし、ベルギー代表FWマリック・フォファナ(リヨン)に次ぐ第2候補と目されており、不透明な状況が続いている。
その一方、プレシーズンマッチの起用法により、オドリオソラ、ベッカー、サディク、カルロス・フェルナンデス、ハビ・ロペス、パリFC移籍の可能性があるトラオレが放出候補と目されている。
■バルサ・ラポルタ会長「目標達成」
リーグ2連覇を目指すバルセロナは、今夏もサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)による選手登録の問題を抱えたままだ。その問題を解決すべく、これまでにパウ・ビクトル、パブロ・トーレといった若手選手を売却した。
その一方で補強は、スペイン人GKジョアン・ガルシア(エスパニョール)を2500万ユーロ(約42億5000万円)、U-21スウェーデン代表FWルーニー・バルドグジ(コペンハーゲン)を200万ユーロ(約3億4000万円)、イングランド代表FWラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)を買い取りオプション付きの期限付き移籍で獲得したのみ。しかし、ラポルタ会長は「目標は達成された。これ以上選手を獲得するつもりはない。チームの完成度は非常に高い」と自信をうかがわせている。
チームは今、アジアツアーを実施中。昨季の好調を維持し、直前に試合代金の未払い問題があったヴィッセル神戸戦、続くソウルFCに勝利し、順調な仕上がりを見せている。
先月29日に腰部の再手術を終えたテア・シュテーゲンの欠場期間次第で新たな選手登録が可能になるため、クラブは現在スペインリーグの判断を待っているが、今夏もこの問題で大いに悩まされることになりそうだ。
しかし、この件で苦労しているのはバルセロナだけではない。多くのクラブがサラリーキャップにあまり余裕がなく、この1カ月で新たに登録された選手は下部組織から昇格した選手を含めわずか27人のみ。Rマドリード、Aマドリード、セビリア、エスパニョール、ラヨ・バリェカノ、バレンシア、ビリャレアル、ベティス、ヘタフェ、ビルバオ以外の10チームは、まだ新戦力を一人も登録できていない。
■浅野コンディション整い上向き
浅野拓磨を擁するマジョルカはスペイン人MFパブロ・トーレ(バルセロナ)とフィンランド代表GKルーカス・バーグストローム(チェルシー)を獲得しただけで、ここまでは比較的動きが少ないチームのひとつだ。
センターバックやサイドアタッカーの補強が必須と考えられており、イタリア代表DFダビデ・カラブリア(ミラン)、スペイン人FWカルロス・マルティン(Aマドリード)などがその候補に挙がっている。
プレシーズンマッチ4試合を終えた成績は2勝1分け1敗。昨季は度重なるけがに苦しんだ浅野は、初戦こそ途中出場したものの、その後2試合をフィジカル面の問題で欠場。4試合目のパルマ戦で戦列復帰して今夏初の先発入りを果たし、前線で好プレーを見せていた。
その他のチームに目を向けると、元スペイン代表FWフアンミ(ベティス)やモロッコ代表DFアブデル・アブカル(アラベス)などを獲得したヘタフェ、かつて乾貴士と一緒にプレーしたベテランのスペイン人FWキケ・ガルシア(アラベス)と元セルビア代表GKドミトロビッチ(レガネス)などを補強したエスパニョールがともに9人で、現在スペインで最も多くの選手を獲得したチームになっている。また、スペイン代表FWブライアン・サラゴサ(バイエルン・ミュンヘン)がセルタに期限付き移籍で加入したことが注目となった。
新シーズン開幕は2週間後に迫るものの、今夏の移籍市場終了の9月1日まで1カ月残されている。各クラブに戦力アップのチャンスがまだ十分にあるため、どのようにチームを仕上げていくか楽しみに見ていきたい。
【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)
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