プーチン体制になって以降、ロシアの資本逃避は減少し続けていたが……(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 ロシアで、いわゆる「資本逃避」が増えている可能性がある。資本逃避が生じているかを直感的に知るには、国際収支統計の中にある“誤差脱漏”の項目を確認するといい。この誤差脱漏(4四半期後方移動平均)は、2021年3四半期より流出超過に転じ、その規模は直近2025年第1四半期で名目GDP(国内総生産)の0.9%に達した(図表1)。

【図表1 国際収支表の誤差脱漏(短期)】

(注)4四半期後方移動平均 (出所)ロシア中銀、同連邦統計局

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 とりわけ、2022年2月にウクライナとの交戦状態に入って以降、誤差脱漏の流出幅は拡大しており、戦争の影響が考えられるところである。

 この間、ロシアは通貨ルーブルを防衛するために、外貨預金の引き出し制限に代表される資本規制を強めていた。にもかかわらず、ロシアは資本逃避の発生を防げなかった可能性が窺い知れる。

 現在のロシアは、1991年12月に旧ソ連が崩壊したことで誕生した。当初のロシアはソ連時代の計画経済を引きずっていたが、その後、ショックセラピーと言われる急進的な市場経済化に努めた。この過程でさまざまな自由化政策が実施されたが、一方で、いわゆる新興資本家(オリガルヒ)の手によってロシアから多額の資本が第三国に流出した。

 この動きに歯止めをかけたのが、2000年5月に就任したウラジーミル・プーチン大統領だった。プーチン大統領は自らの意に背いたオリガルヒを追放し、新たにシロビキと呼ばれるロシア連邦保安庁(FSB、旧KGB)出身者による経済運営体制を築いた。経済活動への干渉を強めることで、資本逃避は2000年以降、徐々に減少した(図表2)。

【図表2 国際収支表の誤差脱漏(長期)】

(出所)ロシア中銀、同連邦統計局

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 もっとも、直近2025年第1四半期の対GDP比0.8%という誤差脱漏の水準は、2004年以来の高水準である。言い換えれば、一連の動きは、プーチン体制の下で資本逃避が引き締められて以来、初めて本格的な資本逃避が生じつつある可能性を窺わせる。戦時下で為替と物価の安定を図りたいロシアにとって、資本逃避の拡大は歓迎せざる事象そのものだ。

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