米投資会社ブラックストーンの本社ビル44階のオフィスにいたジョン・グレイ社長のもとに28日夕方、非常警報が届いた。ビル内での銃乱射事件の通報だった。

  ロビーで銃撃犯が発砲し、制服警官1人と、オフィスタワーで働いていた2人が死亡した。犯人はその後、回転式改札機に向けて発砲し、エレベーターに乗り込んで上階へと向かった。

  グレイ氏の携帯電話は、警備部門からのアラートや状況を把握しようとする同僚たちからの連絡で、鳴り続けた。

  建物内にいた従業員たちは、トイレの個室や電気室の収納スペースに身を潜め、ソファや机、スツールなどを積み上げて出入り口を封鎖した。こうした即席のバリケードの写真が瞬く間にSNS上で広まり、普段は穏やかなオフィスが混乱に包まれている様子が浮き彫りになった。

relates to ブラックストーンを襲った恐怖-パークアベニュー345の悪夢の数時間

家具でバリケードを築くブラックストーン社員

 

  「壮絶だった」と、事件からまだ24時間もたたないうちに行われたインタビューでグレイ氏は目に涙を浮かべながら振り返った。

  マンハッタン中心部のミッドタウンにあるパークアベニュー345番地のビル内で起きた事件は、ニューヨーク市で過去四半世紀に起きた中で最悪の銃乱射事件となった。

  犠牲になったのは、ロビーを警備していた警察官、ブラックストーンで将来を嘱望されていた社員、民間の警備員、不動産管理会社の若手職員の4人だった。

  29日になっても、現場の前を通り過ぎるオフィスワーカーたちの足取りはどこか急ぎ足だった。建物の入り口近くには砕け散ったガラスが残り、掲げられた星条旗は半旗となり、ニューヨーク市全体に広がる衝撃が漂っていた。

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ジョン・グレイ氏

Photographer: Carla Gottgens/Bloomberg

  グレイ氏とスティーブ・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)は29日、社員に宛てたメッセージで、28日を「当社の歴史で最も悲惨な日」と表現した。

  同僚と飲みに行く直前にロビーで銃撃を受け命を落としたのは、ブラックストーンで将来を嘱望されていたウェスリー・ルパトナー氏だった。同氏を含む4人の犠牲者の遺族や友人と同様に、残りの社員たちも数時間続いた悪夢のような出来事をいまだ受け止めきれずにいる。

  事件が起きたのは帰宅ラッシュの最中だった。当初は負傷者や死者が出ているかどうかも分からず、多くのブラックストーン社員はまだ自席にいた。状況を把握しようと、同僚に電話やメッセージを送る動きが広がった。ある社員は、アサルトライフルによる最初の発砲音を聞き、すぐにMicrosoft Teams のチャットで同僚らに避難を呼びかけた。

  その行動が「多くの命を救った」と、ブラックストーンの別の社員は語った。

Shooting At Blackstone Headquarters In New York

犯行現場で対応する警察官

Photographer: Victor J. Blue/Bloomberg

 

  容疑者がロビーに姿を現してから約30分後の午後7時ごろ、警官が社員の一部をビルの外へと誘導し始めたという。ある社員は、ズーム会議中にドアを開けると、手を頭上に挙げた同僚たちと、銃を構えた複数の警官が立っていたと振り返った。警官たちはその一団を急いでエレベーターに乗せ、安全な場所へと避難させた。

  社員たちはフロアごとに誘導され、午後10時ごろになってようやく外に出た人もいたという。午後11時ごろにオフィス全体の避難が完了した頃には、ルパトナー氏が亡くなったという知らせが複数の社員に届いていた。グレイ氏もその夜、他の幹部とともにベルビュー病院を訪れ、遺族を見舞った。

NYC Gunman Targeting NFL Kills 4, Including Blackstone Executive

ブラックストーンのオフィスビルの前で犠牲者に花を捧げる人々

Photographer: Victor J. Blue/Bloomberg

 

  グレイ氏とシュワルツマン氏は29日午前、ズームを通じて世界中のブラックストーン社員に向け、皆が深い悲しみの中にありそれは当然の反応だというメッセージを発信した。シュワルツマン氏は社員同士で支え合うよう呼びかけた。

  ブラックストーンでは現在、社内の警備体制を見直している。多くの社員が、今回の悲劇に対する経営陣の対応を称賛した。事件が起きたビルを所有・運営する不動産会社ルーディンは、周辺地域の犯罪の増加や、最近のユナイテッドヘルスケアCEO銃撃事件を受け、既に警備を強化していた。

  ブラックストーンのオフィスは今週いっぱい閉鎖される予定で、再開時期はまだ明らかにされていない。

  複数の社員が、自分が犠牲者の1人になっていてもおかしくなかったと語った。

原題:Terror at Blackstone: The Harrowing Hours at 345 Park Avenue(抜粋)

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