世界中のスタートアップ関係者が集まるViva Technologyにはそんなエコシステムを構築する、フランス国内の企業、大学、地域、支援機関もブースを出展している。フランスは2013年に「フレンチテック(La French Tech)」を掲げ、政府の強力な後押しのもとでスタートアップ、テクノロジー、イノベーション支援のためのエコシステムを構築してきた。
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Viva Technology 2025は、欧州最大のスタートアップ、イノベーションカンファレンスだ。2025年6月11日から14日まで、フランスのパリにあるポルト・ド・ヴェルサイユで開催された。フランスは2013年に「フレンチテック(La French Tech)」を掲げ、政府の強力な後押しのもとでスタートアップ、テクノロジー、イノベーション支援のためのエコシステムを構築してきた。日本のスタートアップ政策にも多くの影響を与え、世界中のスタートアップ関係者が集まるViva Techは今やその象徴的存在にもなり、体現する場となっている。Viva Techにはそんなエコシステムを構築する、フランス国内の企業、大学、地域、支援機関もブースを出展している。
ディープテックを生み出す大学の仕組み
パリ・サクレー大学(University of Paris-Saclay)は、いくつかの研究機関と大学を統合して設立された総合大学だ。サクレー大学のブースにて、広報担当のRemi WACHE氏に話を聞いた。フランスの国立系の研究機関、工学系大学院であるCentraleSupélecなどとも連携して、全体で400以上の研究室を有し、年間50以上のスタートアップを創出している。主要なディープテックインキュベーターであるSATTなども含め、欧州の中でもイノベーションエコシステムが活発な大学とされている。フランス政府も数年前から多額の投資を行なっており、SATTの創設は研究だけでなく、スタートアップ創出のための資金が利用可能になった点で大きな変革をもたらした。研究者が市場に製品を投入する可能性を理解し、研究をイノベーションに繋げるための支援が提供されている。
サクレー大学で生まれたスタートアップの一例として、集積フォトニクスを専門とする企業LumiSyncがブース出展していた。データセンターで、ネットワーク内の異なる光データを同期する装置を構築し、同期とデータ転送の速度を向上させ、消費電力を削減し、必要な要素の数を減らしてアーキテクチャを簡素化できると期待されている。航空宇宙、防衛分野のレーダーから量子コンピューティングへの応用も視野に入れている。
サーキュラーエコノミーの中心地リヨン
フランスの南東部のリヨンは古い歴史をほこるフランス第2の都市だ。ビジネスフランスのブースでは、フランスリヨン開発公社の工学博士 事業開発部長であるプリスカ・ダル氏に話を聞くことができた。パリへのアクセスもよく、TGVで容易に移動でき、また南欧州への玄関口でもあり、バルセロナ、ミラノ、ジュネーブへ列車で接続し、国際空港からは120以上の地域への直行便が運航しているため、非常に交通の便が良い都市である。リヨンの特徴は産業的アイデンティティにあり、雇用者数でフランス国内第1位を誇り、歴史ある繊維産業、化学産業が最新のテクノロジーと交わり、関連するディープテックスタートアップの創出を促していると説明する。
とくにリヨンはサーキュラーエコノミーの中心地としても注目され、繊維産業、化学産業がより環境に優しく持続可能な産業への転換が進められており、リサイクルの新しい技術が生まれている。持続可能なリサイクルに関する国際的な大規模展示会「POLLUTEC」が2年に1度開催されている。このイベントでは、スタートアップと産業界の連携を促進するための多くの企画が用意されている。また日本との関係でもリヨン地域には150社以上の日本企業が進出しており、その数は年々増加しているという。東レの欧州部門はAxensとともに、プラスチック化学製品のリサイクル工場を建築する計画を発表している。日本の投資家にも戦略的にも魅力ある地域とする。
国の垣根を越える必要があるディープテック支援
フランスとドイツの商工会議所が国境を越えて、共同出展したプラットフォームがStartup-Germany and French-German Tech Labだ。フランスとドイツの研究機関とドイツのエコシステムを融合させるというコンセプトで、毎年4000人以上の企業、投資家、ベンチャーキャピタルがラボに集まっているという。欧州におけるディープテックの将来は、単一国市場を超えて欧州市場全体を見据えること、そして、技術に焦点を当てる分野において、より統合された計画と明確な定義を欧州全体で進めることであると、現在の課題解決を進める。これにより、欧州のディープテクノロジーとスタートアップが国際的な競争力を獲得できると説明されていた。今回のViva Tech2025でもAIモデルの共同設計と協力において調印式も執り行なわれた。
変わるViva Techを表わすLVMHグループ
例年もっとも混雑するブースのひとつLVMHグループはこれまで、支援プログラムの採択スタートアップの個別ブースもともに出展していたが、今回は自社のソリューションを紹介するのみのブースへと変更されていた。個々のソリューションにはスタートアップのテクノロジーが利用されている例は展示にもあったが、象徴的なLVMHグループの変化はViva Tech自体がスタートアップ中心から変わってきていることを示している。
シャンパーニュ地方の老舗メゾンで世界有数規模のシャンパンを製造するMoet & Chandonのコーナーでは、AIを活用してブドウの病気を検出するシステムを展示していた。Moet & Chandonは味を安定させ均質的なシャンパンをつくっているが、このシステムはスマートフォンを設置するだけでカメラで画像を撮影し、病気を検出した後、同じ品質のブドウをグループ化するために分類と検索を行なうことができる。
Viva Techおなじみのヒューマノイドロボ
Viva TechではおなじみのEnchanted Toolsは、球体の移動機構を採用するヒューマノイドロボット「Miroki」を展開している。担当者に呼び止められて、「すでに知っているよ」と話すと、いま展示しているのは新しいビジュアルデザインを採用した第2バージョンだから見ていってくれと話を進められた。外観上の変化は少ないが、ハードウェア、ソフト面ともにカスタマイズを進めていて、すでに第3バージョンの開発にも入っているという。
このロボットは、主に病院や高齢者介護施設での活用を目指しているという。ちなみに日本には2台あるそうで、納品先は展開方法を検討している段階という。日本語にも対応する予定と話していた。
文● ガチ鈴木(ASCII STARTUP)
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