欧州連合(EU)は今週、米国との貿易戦争を土壇場で回避したが、両者の合意に対する市場の否定的反応と批判の高まりにより、大西洋を挟んだEUと米国との関係に再び安定がもたらされるという初期の期待は消滅した。

  28日の外国為替市場で、ユーロの対ドル相場は1%余り下落し、約2カ月ぶりの大幅安となった。貿易合意への期待が先行した先週は、約3年ぶりの高値近くまで上昇していた。

  EUは27日、対米輸出品の大部分に対する15%の関税を受け入れる一方、米国からの輸入品に課す平均関税率を1%未満に引き下げる合意を発表。米国産エネルギー製品を7500億ドル相当購入し、米国に6000億ドルを追加投資すると約束した。

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Euro Declines Following Long-Awaited Trade Deal | The EU faces 15% tariffs on most of its exports to US

 

 

  欧州議会の貿易委員会メンバー、カリン・カルルスブロ議員(スウェーデン)は声明で、「第2次大戦後の大西洋両側の繁栄を支えてきた自由貿易の原則が体系的に解体されつつある。譲歩を重ねるたびに経済的にも政治的にも欧州が周辺に追いやられるリスクが高まる」と警戒感を示した。

  ドイツのメルツ首相は、貿易での衝突を回避し、EUの利益を守ることに成功したと当初は合意を歓迎したが、その後は不満を隠さない。「これらの関税でドイツ経済は甚大な打撃を受けるだろう。ドイツと欧州に限らないとほぼ間違いなく言える。この貿易政策の影響は米国にも波及するはずだ」と28日に記者団に語った。

  フランスのバイル首相も「自由を掲げる人々がその価値を肯定し、利益を守るために統合を進めてきた連合が、服従を選択した暗い日になった」とソーシャルメディアで批判した。

French Lawmakers Vote on 2025 Budget Bill

フランスのバイル首相

Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

  EU高官によれば、EUと米国は週末に取り決めた要素に基づき8月1日までに法的拘束力のない共同声明の策定を目指す。声明がまとまれば、米国は27.5%の関税を賦課している自動車・同部品など特定セクターの関税引き下げに動く。

  両者はその後、法的拘束力を持つ正式文書の策定作業に入る。同高官によると、文書の内容や法的形式は不明だが、EU加盟国の特定多数決による支持、場合によっては欧州議会の承認が必要になる見通しだ。

  法的文書で合意を得るには長い時間を要する可能性があり、多くの貿易協定は数年単位の協議が必要だ。EUは法的文書が承認されるまでの間、米国製品への関税引き下げなどの実施に着手しない方針という。

  オックスフォード・エコノミクスのエコノミスト、オリバー・ラカウ氏は「今回の合意で負のテールリスク(確率は低いが発生すれば甚大な損失をもたらすリスク)は一部取り除かれたが、今後数週間の協議で詳細を詰める必要が出てくるだろう。ボラティリティーが再び高まる危険があり、高い不確実性が続く公算が大きい」と指摘した。

原題:EU and US Rush to Nail Down Final Details and Lock In Trade Deal(抜粋)

(今後の文書策定作業の見通しを追加して更新します)

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