ジュニア世代の野球人口が減少する中、上のカテゴリーでも野球を続ける「継続率」が重要視されている。中学から高校の継続率は一般的に60%程度される中、長野高校は硬式と軟式の2つの部(校内では「班」)を合わせて100%前後と驚異的な数字をマーク。2つの部の関係性が良く、柔軟な部の運営も高校生に響いている。

この春、硬式野球部に入部した1年生は13人、軟式野球部は中学未経験3人を含め9人だった。中学で野球を経験していた1年生は全体で21人おり、硬式13人と軟式の経験者6人を合わせると19人に達し、90%が継続していることになる。新たに野球を始めた部員を含めると100%を超える。

2年生世代もさらに継続率が高い。硬式は12人、軟式は未経験6人を含め9人。中学での経験者は15人で、全員が継続したことになり、新たに始めた部員を含めると優に100%を超える。

同校の各学年の生徒数は280人で、男子は例年5割の約140人。男子生徒の1割5分程度が野球に携わっていることも驚異的だ。

軟式野球部は県内に9校あるが、夏の大会で1、2年生の登録人数が9人に達していないのは4校で、一部高校を除き、部員不足はどこも深刻だ。1、2年生で選手18人が所属する長野は、公立、進学校としてはレアな存在と言える。

↓ 状況を話し合いながら実戦形式の練習をする軟式野球部

軟式野球部にとって未経験者の入部が、部存続の鍵になっている。2年の有賀想真は小中学生時代、サッカーに打ち込んだ。高校ではフットサル部に入部したが「もう少し体を動かしたい」と、見学して雰囲気がよかった軟式に入部。「成長していく感覚が分かる」とフットサル2日、軟式4日の割合で活動する。

2年の柳澤隼は小学生のときに水泳はしていたが、「野球にずっと興味があった。いきなり硬式は厳しい」と軟式に入部。「経験者がよく教えてくれる」と、投手に挑戦している。小林幸司(1年)は中学時代、剣道部で「新しいことをやりたかった。軟式を見学してこれなら頑張れると思った」。

ハードルが高いと思われがちな野球が、軟式は競技転向の選択肢になっている。

↓ 経験者が未経験者に教えながら練習

ピアノなど主に文科系だった養田薫(2年)は「勉強と両立できて、自分にはいいペース」。軟式野球部では活動中、学習塾での早退や、長期休暇の留学なども制約していない。軟式野球部OBで、22年の赴任から昨年度まで監督、今季は部長を務める小松瑛賢教諭(37)は「部員は『家族』。家族なら野球以外のところで頑張っていてもいいと思える。多方面で挑戦する中に野球があればいい」と、兼部や生徒会の役員などを務める部員も少なくない。

バスケットボール一筋だった鹿野景太郎(1年)は「父が野球好きで、職場でも野球をしているのも見て、自分も社会人になってそういう関わりをしたいと思った」と、入部した。

小松教諭はこれまで松本工で軟式野球部監督、塩尻志学館で硬式の顧問を務めて、高校野球界の現状を直視してきた。「部活動の意味をつくっていかないと、部がなくなってしまう」と危機感を感じていた。長野も赴任後、部員不足で連合を組んだ時期もあった。「いわゆる『高校野球』でなく、『高校で野球』でいい。だから高校で野球が終わりでなく、その先にもつながってほしい」と願う。

7月の夏の大会、長野は1、2年生だけで出場した。3年生8人(うちマネジャー2人)全員が、5月の春の大会をもって引退したためだ。

↓ 1、2年生だけで臨んだ夏の長野大会。初戦敗退した

全国大会出場が懸かる夏の大会を前に引退した前主将の保科宗志さんは「ほかの競技は春に引退になる(インターハイ予選)。勉強にいつシフトするか3年生で話し合い、春ですべてやりきることになった」と決断。進学校ならではの選択とも言える。

1、2年生の部員が十分いたこともあるが、これまでも春の大会後に引退し、夏の大会だけ選手補てんで再合流した3年生はいた。この春、監督に就いた西村拓矢教諭(28)は、前任の屋代高では硬式野球部部長。「夏の大会を前にして引退は衝撃的だった。そこを受け入れるのがこのチーム。軟式野球部をつくってきた小松先生の哲学に共感している」。

新チームの塚田瞬主将(2年)は「夏も3年生とやりたかったが、以前から決まっていて春の大会で勝とうとやってきた」と割り切る。塚田主将は中学時代、軟式のクラブチームでプレーし高校では硬式と迷ったが「勉強との両立に不安があり軟式にした」。

ただし軟式に入り、「ほかのことにも挑戦できる。みんな野球好きでやる気を持ってやっている。秋は北信越が目標。来年は夏まで頑張るつもり」と、多彩な顔ぶれのチームメートを束ねる。

一方、硬式も2年連続で二けたの部員を確保。戦績を残しながら進学実績を上げていることなどが評価される。OBで20年に就任の武田圭弘監督(33)は「硬式、軟式の関係性がいい。目指している方向性がはっきり異なり、生徒の選択肢ができている」と、2つの部で受け皿を広げている。

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