水揚げされたスルメイカ(写真:共同通信社)

(安木 新一郎:函館大学教授)

イカが消えたまち

 今年6月2日、函館で予定されていたスルメイカの初競りは中止となった。前日に北海道南部のスルメイカ漁が解禁されたが、肝心のイカがおらず、水揚げできなかったからだ。近年はイカの不漁が続き、2024年もわずか200キロしか獲れていなかったが、初日ゼロというのは史上初である。

 最盛期の1995年の水揚げ量は9600キロ。函館のスルメイカはイカの刺し身だけでなく、いかめし、塩辛、松前漬など、イカは函館の水産加工業も支えてきたが、もはや函館は「イカのまち」と言えなくなりつつある。

 こうした中、存在感を増してきたのが、中国から輸入されるイカだ。2024年はイカ輸出国のロシアでも不漁で、この傾向は今後も続くと予想される。

 ただ、中国沿岸のイカが函館に輸出されているわけではない。中国漁船が南米で獲ったイカが日本に輸出されているのだ。もっとも、ホタテ輸出で痛い目を見たように、日中関係が不安定な中、イカの中国依存は避けなければならない。

ロシアでもイカは不漁

 2024年に入り、ロシア・ウラジオストクにある水産調査機関TINROセンターは、ロシアの水産企業向けに、2024年は千島列島にも日本海にもイカはやってこないという注意喚起を出していた。

 現在、ロシア極東の沿海地方や北方領土・千島列島では、ロシア中央の観光客を呼び込もうと、カジノやエコツーリズムといった観光業への投資が国策となっており、その目玉の一つがイカ釣りだった。にもかかわらず、もうイカは来ないというニュースは、漁業者だけでなく、広く地元に衝撃を与えた。

 日本海の中央部に位置する大和堆はイカの好漁場で、ロシア漁船だけでなく、北朝鮮の漁船も来ていたが、2024年にはほとんどいなくなった。

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