東アフリカの熱帯氷河が消滅寸前の危機に陥っている
Michel &Amp; Christine Denis-Huot / Biosphoto – Droit Géré – Oeuvre Protégée Par Copyright – – – –
気候変動の影響で、東アフリカの熱帯氷河が消滅寸前だ。融解の原因は気温上昇だけではないという。「キリマンジャロの雪」は永遠に失われてしまうのか。
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2025/07/26 08:30
Jorio Luigi
ルポルタージュ、記事、インタビュー、詳細なレポートを通じて、気候変動とエネルギーを取材。地球温暖化が日常生活に与える影響や、温室効果ガスのない地球を実現するための解決策に関心がある。
旅行と発見が好きで、生物学などの自然科学を学ぶ。SWI swissinfo.chのジャーナリストを20年以上務める。
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アフリカは熱帯雨林やサバンナ、砂漠が広がる「暑い国」として知られる。確かに大陸の大部分を占めるのはこうした生態系だが、万年雪に覆われた地域も存在する。
東アフリカの氷河は、赤道付近の標高5000 m以上の地帯に位置する。最大のものはアフリカ大陸の最高峰キリマンジャロ山(5895 m、タンザニア)に数カ所あり、その他の氷河はケニア山(5199 m、ケニア)とルウェンゾリ山地(最高峰の標高5109 m、ウガンダ)に存在する。
世界中の氷河と同様、アフリカの氷河も気候変動で融解が進んでいる。山麓に住む人々や、地元の観光業への影響は必至だ。
インスブルック大学の氷河学者ライナー・プリンツ氏は、スイスインフォの取材に「アフリカの氷河は1900年以降、面積の9割以上を失った」と語る。同氏はスイスに本部を置く世界氷河モニタリングサービス(WGMS)のケニア、ウガンダ、タンザニアの特派員を務める。アフリカの氷河に関する最新かつ包括的な研究外部リンクの1つを共著した。
氷河の融解が地元住民と世界に与える影響
世界氷河モニタリングサービス(WGMS外部リンク)は、世界の氷河の質量バランス、体積、面積、長さに関するデータを収集・分析する研究機関。スイスのチューリヒ大学を拠点とし、40カ国以上に国内通信員のネットワークを持つ。 1986年設立。
国連は2025年を「国際氷河保存年」と定め、さまざまな啓発活動を展開している。スイスインフォは氷河の現状や融解の影響、そして適応策について世界各地のWGMS特派員を取材した。
この研究によれば、アフリカの氷河面積は、わずか1世紀あまりで19.5 km2から1.4 km2に縮小した。残された氷は、ニューヨークのセントラルパークの半分にも満たないサイズにまで縮小してしまった。
中でもアフリカで2番目に高いケニア山は、あと数年で人為的な気候変動によって氷が完全に消失した地球上で最初の山になる可能性がある。
プリンツ氏は「ここの気候条件が大きく変わることでもない限り、東アフリカの氷河は今世紀半ばまでにほぼ完全に消失するだろう」とした。
ケニア山のルイス氷河は、1934年から2010年の間にその体積の90%を失った
Afp Or Licensors
雪が減り氷河が融解
気温上昇が原因で後退しているアルプスの氷河と異なり、東アフリカは気候変動による湿度や雲の量、そして降水量の減少が大きいとプリンツ氏は説明する。
東アフリカでは10月~12月と3月~5月に雨期に入る。標高の高い場所では雨が雪に変わり、雪はやがて氷になる。しかし1800年代末からインド洋の表面温度が変化した影響で、降水量が減少した。そのため氷河に降る雪も次第に減っている。
雪が十分に降らなくなった結果、氷河を日射から守る白い覆いもなくなった。「これが氷河の融解を引き起こす」(プリンツ氏)
山岳地帯に発生する雲の量も減少した外部リンクため、氷河の日照時間が増えた。氷河はたとえ氷点下にあっても、太陽が当たるとドライアイスのように蒸発するため、融解が進んでしまう。
世界気象機関(WMO)の最新報告によると、昨年はアフリカ史上、最も温暖だった年に数えられる。アフリカ大陸の平均気温は1991年~2020年の平均値と比べ0.87度上昇した(世界全体では0.72度上昇)。
Kai Reusser/SWI swissinfo.ch
アフリカにおける氷河融解の影響
東アフリカにおいて、氷河は象徴的な役割を果たし、感情的・精神的な意味合いが強いとプリンツ氏は語る。「氷河が消滅すれば、地域住民の文化的アイデンティティに影響を与えるかもしれない」
地元の観光業にも悪影響が出る恐れがある。ウガンダ野生生物保護庁(UWA)のアルフレッド・マセレカ氏は、住民はこれまで氷河のおかげで「潤ってきた」と話す。子ども達を通学させ、生活水準を向上できたのはそのおかげだとオンライン新聞モンガベイ外部リンクで語っている。
プリンツ氏は、アフリカの氷河は「水源と呼ぶには小さすぎる」ため、地域の水供給より、むしろ観光業や、山の象徴的・文化的役割に大きな影響を与えるだろうとした。
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森を守り、水源を確保
同氏によれば、東アフリカの主な水源は森だ。「降水量が最も多い場所は森林だ。表面積も氷河よりはるかに広い」
アフリカの森林は海抜1000 m~3500 mの高地に位置し、ここは乾燥した低地と比べ気候が湿潤だ。森は雨水を吸収し、ゆっくりと放出する天然のスポンジのような役割を果たす。
だがその森林も、やはり崩壊の危機に瀕している。農業や伐採の拡大で森林面積が減少しているためだ。氷河が後退した後も水供給を維持する生態系の一部である「これらの森を守らなければならない」とプリンツ氏は訴える。
国際氷河保存年である今年、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関、UNESCO)は800万ドル(約12億円)を投じキリマンジャロ地域の水資源保護と山林回復のためのプロジェクト外部リンクに着手した。森林破壊を食い止めるべく、地元コミュニティが持続可能な経済活動を立ち上げられるよう支援している。
東アフリカが氷河の融解と気候温暖化に適応するための対策として、1つには水資源管理の改善が挙げられる。生活排水の再利用や、雨水利用システムの導入を始め、灌漑システムの効率化で水の無駄遣いを減らすなど、複数の取り組みが行われている。
編集:Gabe Bullard、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:宇田薫
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