訪英しスターマー首相(右)と会談したドイツのメルツ首相(7月17日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
英独、防衛協力などを強化する友好条約締結
英国のキア・スターマー首相とドイツのフリードリヒ・メルツ首相は7月17日、ロンドンで会談し、防衛などの幅広い分野での協力を強化する「友好条約」を締結した。
条約には、「一方の国が武力攻撃を受けた場合、軍事的手段を含めて他方が支援する」との内容が盛り込まれ、合同軍事演習の実施やサイバー攻撃阻止へ協力強化、武器輸出での連携などで合意したと英BBC放送は伝えた。
英独は、言うまでもなく北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国である。北大西洋条約第5条(集団防衛)では、下記のように定めている。
欧州または北米における1または2以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす。
締約国は、武力攻撃が行われたときは、国連憲章の認める個別的または集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復しおよび維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的におよび共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を援助する。
すなわち、NATO締結国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、個別的におよび共同して直ちに必要な集団防衛行動をとるとしている。
しかるに、英独はなぜ今、改めて一方の国が武力攻撃を受けた場合の相互支援について約束する必要があったのだろうか。
NATO加盟国でありながらウクライナ支援に反対してきたハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、同国への資金提供や人員派遣に参加しなくていいとの確約を得たとして2024年6月、ウクライナ支援を「阻止しない」と、ようやく消極的容認姿勢に転じた。
他方、同首相は2025年3月に欧州連合(EU)首脳会議で、ウクライナに対するEUの軍事支援強化に反対し、加盟27カ国による全会一致での合意には至らなかった。
また、ウクライナのEU加盟の是非を問う6月の国民投票で、投票者全体の95%が反対票を投じたとして、EU首脳会議の場でウクライナの加盟に反対する立場を表明する見通しである。
NATOは全会一致の合意を基本としている。EUも基本条約の改正や新規加盟国の承認、共通政策の導入などの重要事項では全会一致が必要である。
これらを背景に、今回の英独友好条約の締結は、オルバン首相のハンガリーや、次に述べる民族主義の高まりを見せる中欧・東欧諸国で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を助けるような勢力が台頭し、ウクライナ支援やNATOの集団防衛などの重大局面において、欧州の結束に揺らぎや乱れが生じ、機能不全・停止に追い込まれることを見越した動きと見ることができよう。
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