福島ユナイテッド 写真:寺島武志
7月12日の明治安田J3リーグ第20節で、福島ユナイテッドはSC相模原を相手に1-0で勝利(相模原ギオンスタジアム)し、5試合ぶりの白星を挙げた。
この勝利で順位を10位にまで上げJ2昇格プレーオフ戦線に踏みとどまった福島だが、失点数はリーグワーストの43だ(第20節終了時点)。ワースト2位の高知ユナイテッドは35であり、失点の多さが際立っている。
それでも福島は“撃ち合い上等”とも言うべき攻撃サッカーを貫く。なぜ失点が多くても攻撃にこだわるのか。どのようにこのスタイルを維持しているのか。その背景には、就任2年目の寺田周平監督の哲学、チームの歴史、選手の特性が深く関わっている。
ここでは、そんな福島の攻撃サッカーの根源とその意義を、過去のデータ、監督や選手のコメントを基に、検証する。
寺田周平監督 写真:Getty Images
寺田監督の信念「攻撃こそが観客を魅了する」
福島の攻撃サッカーの根幹には、寺田監督の明確な哲学がある。同監督は12日の相模原戦後、試合後の記者会見で次のように語った。
「久しぶりに見ていて面白いシーン、福島らしい素晴らしいシーンがたくさん見られた。ここからまた後半戦、上昇気流に乗っていくためにも本当に良いきっかけになるゲームになった」
この発言は、寺田監督が単に勝つだけでなく、観客を惹きつける「面白いサッカー」を重視していることを示している。守備の安定よりも攻撃的な姿勢で試合を支配し、観客に感動を与えることを優先する哲学がある。同監督が現役時代(1999-2010)に川崎フロンターレで共に戦った元日本代表MF中村憲剛氏も、昨年11月18日にX上で、福島を「尖ったサッカー」「面白い」と表現し称賛した。
昨2024シーズンに福島の監督に就任した寺田監督は、攻撃的な選手起用と戦術を一貫して採用してきた。2025シーズンも、前線にFW森晃太やFW樋口寛規といった得点力のある選手を並べた3トップのフォーメーションを貫き通し、試合展開に関わらず攻撃のスイッチを緩めることはない。
相模原戦では、森が前半19分に挙げた1点を守り切り1-0の勝利を収めたが、寺田監督の戦術は基本的に、ボールを保持し、積極的にゴールを狙うことで相手にプレッシャーをかけ、試合の主導権を握ることを目指している。
昨2024シーズンの福島には、現在J2ロアッソ熊本で活躍中のFW塩浜遼や、今季J1川崎フロンターレに復帰したMF大関友翔らが在籍。リーグ5位でシーズンを終え、J2昇格プレーオフに進出した(4位の松本山雅と1-1で引き分けたものの、大会規定により敗退)。
塩浜は、今シーズン熊本で第4節からスタメンに定着。第23節終了時点で9得点を挙げ、チームのトップスコアラーとして攻撃を牽引している。
大関は当時、川崎から育成型期限付き移籍で加入し、19歳の若さでJ3ベストイレブンに選出される活躍を見せた。川崎に復帰した今季はAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)でのパフォーマンスが評価され、E-1選手権に臨む日本代表にも初選出された。
福島ユナイテッド サポーター 写真:Getty Images
福島のサッカー文化と攻撃志向の歴史的背景
福島の攻撃サッカーは、チームの歴史にも根ざしている。2014年にJ3リーグに参入して以来、地域密着型のクラブとして、震災で傷付いた福島県の復興と元気を象徴する存在を目指してきた福島。公式サイトでは「スポーツを通じて福島を元気に/子供達に夢を/世界に誇れる福島を」と掲げている。
例えば、地元農家との協業として野菜や果物を栽培・販売する「農業部」や、その食材を使用した「カレー部」(部長はいずれもFW樋口)もその一環で活動している。“超”の付く攻撃的なサッカーもこのミッションを体現する手段の一つだ。
過去のデータを見ても、福島の攻撃志向は顕著だ。2024シーズンのデータによると、福島の1試合平均シュート数はJ3リーグ上位に位置し、チャンスビルディングポイント(攻撃の質を測る指標)もリーグ平均を上回る。
一方で、失点数の多さは課題だ。2025シーズン第20節終了時点で43失点は、攻撃にリソースを割くことで守備が手薄になるリスクを物語っている。しかし、寺田監督は失点を恐れず、攻撃で取り返すスタイルを貫く。これは、福島が単なる結果だけでなく、スタジアムを訪れた観客の“顧客満足度”を重視していることを示しているのではないだろうか。
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