
沖縄戦の体験者が少なくなる中、戦争の記憶をいまに伝えるのが壕などの「戦跡」です。この「戦跡」を大切にしながら今は亡き元学徒の平和への思いを語り継いでいる女性を取材しました。
(NHK沖縄 市川可奈子)
ヌヌマチガマ
八重瀬町にある「ヌヌマチガマ」です。沖縄戦当時、野戦病院として使われました。

「手前の方が手術室。処置を終えた患者が運ばれる、こちら病室壕」と案内しているのは、「八重瀬町ガイドの会」の嘉数千秋さん(49)です。もともとバスガイドをしていた嘉数さん。戦争の悲惨さを伝えることに専念したいと7年前に平和ガイドになりました。なかでも、兵士の看護などに動員された「白梅学徒隊」を語り継ぐことに力を入れています。
元学徒の思いを継ぐ
元白梅学徒隊の中山きくさんとは、一緒にガイドをする中で当時の体験談を聞きました。

“手術は夕方から夜中にかけてやっていた”と。どうしてですかと聞いたら、戦場で傷ついた兵隊さんたちをピックアップしてトラックに乗せて運ぶころには夕方になっていた。
ここでは、白梅学徒隊の学徒5人が動員され、多いときでおよそ1000人の負傷兵の看護にあたりました。

切断された手足を外に捨てに行くのも学生たちの仕事のひとつです。ガマの外に出ると爆弾が雨のように降り注ぐ“鉄の暴風”の戦場。

戦争体験を語り続けてきた中山さん。おととし、94歳で亡くなりました。生前、「ヌヌマチガマ」をそのまま残し、戦争の記憶を継承してほしいと嘉数さんに語っていました。

ありのままの状態をみなさんに見てほしいと。滑ったり転んだりする生徒さんもいるので砂利を敷いたらいいじゃないかとか、手すりつけたらいいじゃないっていう、そういう意見もガイドの中からあがったんですけれども、きくさんたちの思いは、風化劣化するのもやっぱりしょうがないことなので。そのありのままの状態をみなさんに見てほしいと。
白梅学徒隊が看護活動にあたった壕の多くは、天井が崩落するなどしています。現在、安全性が保てていて内部に立ち入ることができるのは、ここだけです。

地域の人にも知ってほしい

「ヌヌマチガマ」を守り、中山さんたち元学徒の思いを語り継いでいきたいと取り組む嘉数さん。ただ、保存のために協力していく地域の人から、「実は内部に入ったことがない」とか「あまりよく知らない」という声を聞きました。

ここってガマがあるって聞いたけど入り口どこなのとか、入ってみたいけど、どんなふうに申請したらいいのっていう、そういう問い合わせとかが結構あって。入ってみたい、知りたいっていう方たちも多いっていうのも知って、その地域の方々にやっぱり大切にしてもらいたい場所でもあるので、その方たちにまずは知ってもらうということも大切だねっていう。
ガマを案内する

嘉数さんは地域の人たちを招いて、慰霊祭を開くとともに、内部を案内することにしました。当日、子どもから大人まで、20人以上が集まりました。ほとんどの人が内部に入るのは初めてです。嘉数さんは、沖縄戦当時の状況が、いままさに繰り広げられているかのように想像してもらえるよう、ことばを選んでいきます。

座りなさいって言われても、座るのもちょっとちゅうちょするようなこの場所に多くの患者がひしめき合っていた。「軍医を呼んでこい」「包帯を替えてください学生さん」「水をください」、そのような声があちらこちらから飛び交います。
白梅学徒隊の少女たちが、手術室とされた空間で負傷兵の手足の切断を手伝っていた状況も伝えました。

患者が暴れますのでその患者を抑えつける係、ろうそくを持ってお医者さんの手元を明るく照らす照明係、お医者さんから「しっかり持てこの野郎」とビンタをされたり、本当に手術の手伝いは大変だったよという話を生き残りの方々がしてくださいました。

(参加した女性)
そばから通るだけではね、それは分からないし、そこに入って本当に戦争ってこういうものかという感じでね。すごい大変だったんだなと思いました。

(参加した女の子)
怖かった。話を聞いて自分で想像するより実際に見た方が分かりやすい。

80年前はこの暗闇が一番人々が安心できる場所が、もうここしかなかったという過酷な状況も体感できる場所なので、地域を挙げてこのヌヌマチガマ、大切な場所っていうことをみなさんに知ってもらう、そして私たちもその地域の方々の戦争体験のお話なども一緒に共有して、平和な世界が続くようにということで語り継ぎを頑張りたいなって思っております。
取材後記
ガマの中に入ることで感じる、じめじめした空気や暗闇の空間、ごつごつした岩。そうした中で戦争体験を聞くことで当時の様子をより想像できると感じました。嘉数さんは「ガマの外に出たときに感じるほっとした気持ちも、いまが平和だから感じられるもの。それを忘れないでほしいし、1人でも多くの人に体験してほしい」と語っていました。
「ヌヌマチガマ」に入るには平和ガイドによる引率が必要です。八重瀬町のホームページに掲載されているガイド団体に問い合わせてほしいということです。

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