一歩外に出ると世界はこんなに広く、そこには多彩な暮らしがある。そう思わせてくれる南紀の旅は、国道42号線沿いから始まった。白浜町、すさみ町、串本町、那智勝浦町。海沿いの4つの町を訪ねると海と密接に結びついた、美しく豊かな人びとの暮らしがあった。
今回は、その中から「すさみ町」の魅力をお届けする。
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和歌山県・白浜町の食材や水から生まれた「和食、クラフトビール、温泉」を巡る
それぞれの技術や特技で自分たちの居場所をつくり人とつながっていく
婦夫波
東西の波がぶつかり合う「合掌波」による奇観が楽しめるのはこの地だけ。
西牟婁郡すさみ町見老津
寄せては返す東西の波がぶつかり合って白いしぶきが跳ねる。そのさまから「婦夫波」と呼ばれ、すさみ町の奇観として愛される恋人岬。「夫」と「婦」が通常と逆なのは、「これからの時代は女性が強いから」らしい。たしかに、和歌山の女性はしなやかで強い。その印象は、恋人岬から車で約10分、すさみ海水浴場の目の前にある〈Sea coffee & espresso〉の田中絵理さんを訪ねたときに、たしかなものとなった。
目の前に広がる稲積島のマジックタイムを表現したクリームソーダは看板メニュー。ネルドリップで淹れたアイスブレンドも幅広い世代に人気。
田中さんは結婚を機に名古屋から夫の故郷・すさみ町に移住した。「結婚前は〈スターバックス〉が好きでずっと働いていたんです。こっちに移住したら、スタバが一軒もなくて。いつオープンするかと期待してたんですが、待てど暮らせどできないから、自分で喫茶店をつくっちゃいましたよ」と田中さん。
地元で長く親しまれてきた古い喫茶店を改装した店は、昭和レトロな空気がそのまま。大手コーヒーチェーン店で培った技術で、深い味のコーヒーを提供する田中さん。
すさみ町には結婚を機に移住してきた女性が多く、自立をテーマに交流会も行っているそう。「小さな町では手に職があっても、ひとりでは何もできない。横とつながるのが大事なんです。すさみ町にお嫁に来て、がんばってる女性はかなり多いんですよ。私自身、寂しかったから喫茶店という居場所をつくったんです」。移住してから、ずいぶん積極的になったと田中さんは笑う。
Sea coffee & espresso
国道42号沿いに佇むレトロな喫茶店。布フィルターで抽出するネルドリップ式のコーヒーは深煎りでまろやかな口当たり。店内から稲積島を眺められるため、窓際の席が人気。
西牟婁郡すさみ町周参見4581-10
https://www.instagram.com/seacoffeeandespresso
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