「分断」を目的としたロシアのソーシャルメディア作戦が展開されていた(筆者がWhiskで生成)

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

世論工作にボットネットと生成AIを活用するロシア

 山本一郎氏がnote上で発表した記事「参政党を支えたのはロシア製ボットによる反政府プロパガンダ」が注目を集めている。ぜひ一読していただければと思うのだが、ごく簡単にまとめてしまうと、「参院選を前に、ロシアのボットネットが日本のソーシャルメディア上で偽情報を拡散。生成AIを活用して巧妙なメッセージを流し、政府への不信感を煽っている」という内容だ。

「ロシアのボットネット」とは一体何物か。山本氏の記事によれば、これはロシア政府が日本のSNS空間で大規模な情報工作のために開発した、自動で記事を投稿する一連のアカウント群だ。

 そうした自律型のプログラム(ボット)が生成AIを活用して日本語の壁を乗り越え、X(旧Twitter)やTikTokなどで親ロシア的な日本語の投稿を拡散したり、石破政権への批判や偽情報を流したりしている。また、特に「レイジベイティング」という手法で人々の感情を煽っており、政府への不信感を増幅させることが目的とみられると解説されている。

 ロシア政府が生成AIを活用し、SNS空間に大量のプロパガンダ(生成AIを利用したものは特に「スロパガンダ」と呼ばれるようになっている)をばら撒いていることについては、この連載でも以前に触れたことがある。

 簡単に説明すると、特定の個人や集団、社会層に合わせてカスタマイズされた偽情報を大量生成し、ボットネットを通じてソーシャルメディア上で拡散することで、「噓も100回言えば真実になる」式のアプローチによる世論工作をロシアが行っているという話だ。

 実はいま、世界の多くの国々において、ロシア政府が同様の世論工作をソーシャルメディア上で行っている証拠が確認されている。要は「日本も例外ではなかった」という話だ。こうした新時代のプロパガンダについては、まだ有効な手立てが見つかっておらず、ソーシャルメディアを利用する私たち一人ひとりが注意するしかない。

 しかし怖いのは、ロシアのプロパガンダあるいはスロパガンダは、必ずしも「ロシア政府の主張に沿った偽情報を拡散する」とは限らないという点だ。

 先ほどの山本氏の記事でも、ロシアのボットネットが、以下のような勢力の主張を拡散していると指摘されている。

・参政党

・日本保守党

・れいわ新選組

・反ワクチン派

・沖縄独立派

 ご覧の通り、右派だけでなく左派のグループも含まれており、山本氏はこの状況を「政府批判、石破茂、岩屋毅、公明党などへの攻撃が中心であり」「使えるものは何でも使う傾向がある」と表現している。

 実はこのように、「現政権の批判」あるいは「社会の分断」を目的としたロシアのボットネット作戦が、昨年まで欧州で大規模に展開されていたことが確認されている。それが今回取り上げる「ドッペルゲンガー作戦」だ。

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